[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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豪雪の正体JPCZの姿を捉えた

(2022年3月15日)

 今年の冬は北陸地方を中心として、例年にない豪雪となりました。テレビの天気予報では、JPCZという聞き慣れない言葉がよく出て来ました。これは一体何なのでしょうか。このたび気球による観測でこの正体が明らかになってきました。

 

 JPCZとはJapan sea Polar air mass Convergence Zoneの略で、日本海寒帯気団収束帯と呼ばれるものです。冬季の日本海には海上を渡る北西からの強い季節風によって多数の筋状の雲ができ、日本列島の日本海側に大雪をもたらします。この筋状の雲のうち、風の収束(2つ以上の風の流れが寄り集まって一つの流れになること)によってひときわ太くて強い帯状の雲の列ができることがあり、長さが数100キロメートルに及ぶことがあります。これがJPCZです。

 今季の豪雪は、このJPCZが一定の場所に停滞したことによってもたらされたと考えられています。

 

 JPCZはどのような構造のものなのでしょうか。それがわかれば、正確な降雪の予報に役立てることができます。

 そこで三重大学・水産大学校・新潟大学・東京大学大気海洋研究所等からなる研究グループは、2022年1月19日~20日に水産大学校所属の練習船耕洋丸でJPCZを横断しながら1時間ごとに観測気球を放球し、上空の気温・湿度・風向風速・気圧を測定。同時に海水の温度及び塩分観測を行いました。

 

 その結果、JPCZのあるところでは、高度約4キロメートルまでの間に風向風速が急変していることがわかりました。図は1キロメートル上空の風のようすです。JPCZのあるところでは、風向が約90度異なる西よりの風と北よりの風がぶつかるように吹いていました。収束域の幅は約15キロメートルほど。また高度6キロメートルまで上がると、収束していた気流が逆に発散していることもわかりました。

 周囲にある普通の雪雲の雲頂高度は約2キロメートルなので、JPCZの雲頂高度はその2倍もあったのです。

 また海面には水温14度という暖かな対馬暖流があり、海面付近の大気との温度差は11度もあったため盛んに蒸発し、風速17メートル毎秒の強風とあいまって、大量の水蒸気が雪雲に補給されていました。

 気流の収束による乱流を伴う強風軸の生成と海からの大量の水蒸気の補給によってJPCZの長距離に渡る強いうねりができていたのです。

 JPCZの水蒸気量を降雪量に換算すると、1日あたり2メートルもの降雪に相当するそうです。

 

 JPCZという特殊な気象現象の現場をリアルタイムで観測することによって、豪雪のメカニズムが克明に解明されたと言えます。この成果は雪害予測や、より正確な天気予報に役立ちます。

図 気流の収束による風向風速の急変と温かい海面から水蒸気が大量に補給されることでJPCZが生成されることがわかりました。 ©4大学合同JPCZ観測チーム

 

【参考】

豪雪をもたらすJPCZを日本海洋上観測で初めて捉えた-1時間毎の気球観測に成功-

サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。