旧石器時代に地磁気極が45年で南極大陸へジャンプ
(2022年5月01日)
福井県水月湖(すいげつこ)の湖底の堆積物に残存している古地磁気を調べることで、今から4万年ほど前に、地磁気極が2000年以内という短期間で大きく移動する地磁気エクスカーションが起こっていたことがわかりました。
神戸大学の兵頭政幸名誉教授、立命館大学の中川毅教授、オックスフォード大学のビクトリア・スミス教授ら日英の研究チームが明らかにしたものです。
地磁気極の逆転現象はよく知られており、最近では約78万年前に起こったことがわかっています。しかし、地磁気逆転の他にも規模の小さな磁気極の移動が起こっており、これを地磁気エクスカーションと呼んでます。エクスカーションとは英語で、通常のコースからの逸脱(いつだつ)とか偏移(へんい)という意味です。
研究グループは、水月湖の年縞(ねんこう)堆積物の磁気の向きを高解像度で解析し、旧石器時代に当たる4万2000年前と3万9000年前に2回のエクスカーションが起こっていたことを見い出しました。さらに年縞の数を正確に読み取ることで、地磁気極の移動の速さを見積もることにも成功しました。
年縞堆積物とは、長い時間をかけて湖底などに堆積した地層のことで、季節の変化に合わせて堆積する植物などの色が異なることから木の年輪と同じように年代を知る手掛かりとなっています。水月湖には1年当たり1ミリメートル程度で規則正しく層を成した年縞堆積物が残っており、炭素14年代測定法(炭素14という炭素の同位体の半減期を利用して年代測定をするもの。数万年前まで測定できる)の標準を校正するのに使われています。
このたび研究グループは、福井県年縞博物館が持つ水月湖湖底の堆積物を入手、平均解像度21年という高解像度で古地磁気データを得ることに成功。その結果、期間が100年以下の地磁気極の移動を5回繰り返すエクスカーションが4万2000年程前に、さらにその2600年程後の今から3万9000年ほど前に、振動を2回繰り返すエクスカーションを新たに発見しました。
このたび発見されたエクスカーションのなかには、地磁気逆転に迫る180度近い大きな磁極移動のケースがあったこともわかりました。わずかな期間で北極圏から南極大陸まで磁極が移動したのです。移動のスピードは非常に速く、北極圏から南極大陸への移動に45年、戻るのに38年しかかかっていませんでした。
また、この地磁気極の大移動によって、地磁気が弱まり地球周囲の磁気圏の状態が大きく変わったため、宇宙空間からやってくる宇宙線の量も大きく増加していたこともわかりました。
この研究は次回の地磁気逆転を含む地磁気大変動のメカニズムの解明に役立つと考えられています。
また数万年の過去という、これまで炭素14法では測定誤差の大きかった時代を調べる際の年代測定標準として、今回の二つのエクスカーション(中心年代4万2050年・期間790年、及び中心年代3万8830年・期間550年)が貢献していきます。
【参考】
サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。