[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

おうちで出来る楽しい理科実験 ~水流に出来る縞模様の仕組み~

(2022年5月17日)

 水は身近なものではあるが「くめどもつきぬ」多彩な面白さがある。水は、髪の毛の太さの1万分の1程度のさしわたしの水分子が沢山集まったものである。その水分子と水分子の間には、強く引き合う力がある。それが、液体としては例外的に大きな表面張力を作っている(図内矢印のような力)。そのため、水滴は図1の矢印で示したような丸みをおびた塊(かたまり)となることが多い。

図1

 ここでは、流れ落ちている水流に働いている表面張力を考える。実験は極めて簡単で、図2のような、単に水道の蛇口から落下する水流の観察であるが、いろいろ奥の深い科学(化学、物理)が含まれている。

図2

 細く絞った水流を図3のように数cm程度下にあるコップの水面にぶつけた場合に、そこからの反動(反射)の働きで水流の表面に間隔1mm程度の安定な縞模様(しまもよう)が観察される。これは千葉県立佐倉高等学校の鳴戸 崚一郎(なると りょういちろう)君によって問題提起された[1]。

図3

 詳細に見ていく。図4が水流部分の拡大である。6本の縞が確認できる。落下距離を数十mmにすると、間隔0.9mm~0.4mm程度の水平方向に膨らみとへこみによる縞模様が3~8本程度できる。もちろん、水流はどんどん落下しているので静止している水の描く模様ではない。ここでは、縞の担い手の水分子はどんどん入れ替わっている。しかしながら、この縞模様自体はかなり安定で「止まって」見える。このようなパターンとして安定な波を「定在波(ていざいは)」という。[2]

図4

 
 一般に媒体(例えば水)の動く速さvと、そこに発生する弾性波(だんせいは)の伝わる速さuが一致すると、全体の軌道の描く形状が止まっていてあたかも「定在波」のように見える。水流の例を図5に示したが、イメージとしては、車の流れにおける渋滞点がある地点に留まりやすい現象で説明する。高速道路で渋滞して車列の流れが遅くなる場合、渋滞点はまず前方から後方へ移動して来るが、その速さuと車列自体の進む速さvが一致すると渋滞点はある地点に留まっているように見える。この仕組みと同じである。

 

図5

 それを踏まえて、水道の蛇口から落下する水流の表面に発生する今回の縞模様についてもその見方(図5におけるuとvの一致)をあてはめてみる。

 結果として、定在波の条件では縞の間隔dと落下する水流の高さhが反比例することがわかる。以下、数式を使って説明する。

 空気のなかで水が、平面を介して接している場合、その境界面が不安定になる。表面での空気とのこすれ合いの摩擦が、表面張力による凹凸(縞模様)を引き起こしてしまうのである。これはケルビン・ヘルムホルツ(KH)の不安定性[3]理論として知られている。この理論に従って不安定性で形成される縞模様の間隔dを求めると、それは水の表面張力γ(ガンマ)に比例し、水の密度ρ(ロー)に反比例していて

 

d =(2πγ)/(ρu) —– (1)

π(パイ)

 

と表される。ここで、uはその波(円筒面を表面張力で伝わる弾性波)の伝搬速度である。上で述べた「定在波」に見える条件としてこのuが波を伝搬させる媒質自体の速さvで置き換えてみる。力学で重力場(重力加速度g)での自由落下で、高さhだけ落下した物体の速度vは  

 

v2=2gh ——————- (2)

 

 

の関係があるので、このv2と(1)の右辺分母の波の伝搬速度の2乗u2を等しいと置いてみる。以下となる。

 

d =(2πγ)/(2ρgh)——– (3)

 

そして、右辺分母のhを左辺に持ってくると結果として 

 

d・h=(πγ)/(ρg)——– (4)

 

を得る。右辺は定数のみである。これは縞模様の間隔dと高さhが反比例関係にあることを意味している。

 ここへ各定数γ、ρ、gの値[3]を代入するとd・h = 23mm2である。これは観測された縞模様間隔0.9 mm~0.4 mmに対して、h=26 mm~58 mmを意味しており、不思議なほどよく合っている。

 葉の上の水滴など、静止している水に働いている表面張力は日常生活でよく見かけるが、このような落下する水流と言う高速で動いている状況でも、表面張力は大きな影響を与えていることがわかる。

 

 水の表面張力は温度によっても変わる。60℃では5℃の時の88%ほどに減る。温度による縞模様の変化を調べるのも興味深い。また、牛乳の表面張力は水の半分程度であるので、牛乳の流れを観察して水と比較するのも発展的な課題である。

 

[1]SSHコンソーシアム千葉「令和3年度トップレベル人材育成プログラム研究報告書」(千葉県SSH千葉大学高大接続事業)物理分野p.40 鳴戸崚一郎(千葉県立佐倉高等学校)

[2] standing wave のこと。これは一般には「定常波(ていじょうは)」と呼ばれることが多いが、ここでは「定在波(ていざいは)」と言うことにする。

[3]参考文献の例 https://physmemo.shakunage.net/phys/fluid/instability.html

[4]国立天文台編「理科年表」(丸善)物理/化学部

夏目 雄平(なつめ ゆうへい)

 千葉大学名誉教授・グランドフェロー(国際教育センター)。固体物性物理学専攻。最近の著書に「やさしく物理」(朝倉書店)、「やさしい化学物理~化学と物理の境界をめぐる」 (朝倉書店)など。 「理科の探検」 (SAMA 企画)編集委員など。文系の著書に「小さい駅の小さな旅案内」 (洋泉社新書)など。各地でサイエンスイベントを行っている。
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