[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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ラフレシアの種子に隠されたヒミツに遺伝子から迫る!!

(2023年12月01日)

 世界最大級の花を咲かせるラフレシアは、東南アジアの熱帯林に生育しています。ラフレシア属の植物は42種に分類されていますが、いずれも絶滅の危機にさらされているので、その保全は重要な課題となっています。

 

 ところが、ラフレシアの保全には困難さがあります。それは生育地が限られていることです。その理由のひとつとして、ラフレシアが寄生植物であることが挙げられます。ラフレシアは、どの植物にでも寄生するわけではなく、ブドウ科ミツバカズラ属のつる植物に寄生します。そのため、宿主となるミツバカズラ属の植物が生育していなければラフレシアも見つからないのです。

 また、ラフレシアの発見自体も困難です。というのも、ラフレシアは宿主に寄生して栄養を得ているので、自らの葉や茎が退化しています。このため、花が咲いているときが発見のチャンスですが、開花は数日しか続きません。こうしたことから、ラフレシアの自生地を見つけて保全するのが難しくなっているのです。

 保全を難しくしている原因は、他にもあります。それは、ラフレシアを植物園で栽培することも、種子を温室で発芽させることも、ほとんど成功例がないということです。これはラフレシアの生態、特に種子の発芽について、未解明の謎が多く残されていることが、おもな理由です。

 

 そこで、ペース大学(アメリカ)を中心とする研究グループは、ラフレシアの種子で働く遺伝子群を網羅的に調べることにしました。種子の発芽のメカニズムを遺伝子のレベルから解明しようと考えたのです。

 この研究では、ラフレシアと共に、シロイヌナズナ、ストライガ、ネナシカズラ、キバナシュスランという植物で、それぞれの種子で働く遺伝子が詳しく調べられました。シロイヌナズナは世界中で研究されているモデル植物のひとつで、遺伝子の種類やその働きについて研究が進んでいます。ストライガやネナシカズラは、ラフレシアとは異なる系統の寄生植物です。キバナシュスランは生きるのに必要な栄養を共生する菌類に依存している植物で、発芽時に菌類との密接な関わりがあります。このように、特徴が異なる植物と比べることで、ラフレシアの種子発芽に関わる遺伝子について調べようとしたのです。

研究に使われたラフレシアの1種 Rafflesia speciosa(撮影 Molina J.)。画像右下のスケールバーは10 cmを示す。[Plants, People, Planet. https://doi.org/10.1002/ppp3.10370 より引用]

 

 研究の結果、ラフレシアの種子では、ほかの寄生植物の種子と同じ遺伝子群が働いていることがわかりました。これらの遺伝子群は、宿主の体の組織を分解したり、吸器を形成したりといった、すべての寄生植物に共通のプロセスに関係しています。

 一方で、ラフレシアの代謝は、他の植物とは大きく異なっていることもわかりました。たとえば、カロテノイド合成に関わる遺伝子が失われていたり、脂肪酸代謝に関わる遺伝子が多かったりしたのです。

 こうしたラフレシアだけに見られた特徴に着目すれば、種子をうまく発芽させることができるようになるだろうと研究グループでは考えています。今回の研究は、ラフレシアの保全につながると期待されます。

 

【参考文献】

Molina J. et al. (2023) The seed transcriptome of Rafflesia reveals horizontal gene transfer and convergent evolution: Implications for conserving the world’s largest flower. Plants, People, Planet. https://doi.org/10.1002/ppp3.10370

 

保谷 彰彦 (ほや あきひこ)
文筆家、植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
https://www.hoyatanpopo.com