生物多様性で新枠組合意、問われる実効性
(2023年3月16日)
地球上では100万種の動植物が絶滅の危機に直面しているとされます。人間の暮らしは食料、エネルギー、医薬品などあらゆる側面で自然に依存していて、生物多様性が失われれば人類の存続も危うくなります。
この危機的な状況を受け、国際社会は2030年までに生物多様性の損失を食い止め回復させていくための一歩を踏み出しました。
2022年12月、カナダ・モントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、2030年を期限とする目標を盛り込んだ「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。当初は中国・昆明(こんめい)で会議を開く予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大で延期され、予定より2年遅れての合意でした。
新たな枠組の下で生物多様性保全を進めるには、企業など国以外の取り組みも非常に重要になります。
例えば、2030年目標には「陸域と海域それぞれで少なくとも30%を保全すること」(30by30)という項目が盛り込まれました。この「30%」には国立公園などに加え、民間企業や自治体などが所有していて生物多様性保全に貢献する地域(OECM)もカウントします。
国立公園の新規指定や拡大には地権者との調整などで時間がかかり、その間に生物多様性がどんどん劣化してしまう恐れがあります。一方で、企業などが経済活動と両立させながら、結果として保全につながっているエリアが既にあります。そうした地域をOECMに指定し、引き続き適切に管理していくことが国全体、地球全体の保全につながると期待されているのです。日本では里地里山や水源の森、社寺林などもOECMとして想定されています。
また、目標の中には原材料調達などに伴う企業の生態系リスク情報開示に関する項目もあります。開示に後ろ向きな企業、森林の違法伐採など生態系に悪影響を及ぼしている企業は投資家から資金を集めにくくなるため、結果として、企業活動に伴う生態系破壊が減ることが期待されます。
開示を企業に義務づけることは見送られたものの、各国政府には大企業や金融機関に情報公開を促す何らかの措置を講じることが求められます。先行して国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が開示の枠組み造りを進めており、リスク情報開示の動きは拡大するとみられます。
厳しい交渉を経て採択された新枠組ですが、問題は実効性です。
環境NGO「WWFインターナショナル」のマルコ・ランベルティーニ事務局長は枠組合意を評価しつつ、「行動が遅れたり、約束した(資金などの)リソースが動員できなかったりすれば、この枠組はうまくいかない。目標が達成されないときに各国政府に対策強化の責任を負わせる仕組みもない」と懸念を示しています。
日本政府はこの新たな枠組に対応するため、新たな生物多様性国家戦略を今月にも閣議決定する予定です。あと7年のうちに生態系を回復に転じさせることができるかどうか。エネルギー危機など国際情勢が激変する中でも、生態系保全の取り組みは一刻の猶予もありません。
大場 あい(おおば あい)
2003年毎日新聞社入社。山形支局、東京本社科学環境部、北海道報道部、つくば支局を経て、2018年10月から再び科学環境部に在籍。環境担当として国連気候変動枠組み条約締約国会議、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などを取材。2018年度から気候変動影響や適応策に関するキャンペーン「+2℃の世界」を担当した。