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RISTEX・公私空間領域トークイベント「子どもの”傷つき”に どう気づく?~二次被害を生まないために私たちができること」開催レポート

(2023年2月22日)

はじめに

 国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(以下、RISTEX)は、現代社会が直面する社会問題の解決および科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への対応を通して、新たな社会的・公共的価値を創出するための研究開発を推進しています。

 今回は、RISTEXの「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域が1月31日に開催したトークイベントについてご紹介します。

 

「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域    

https://www.jst.go.jp/ristex/funding/pp/index.html

 本領域は、公と私が協力して、発見・介入しづらい空間・関係性における危害・事故を発見し、低減・予防(予見・介入・アフターケア)できる仕組みづくりやその活動に資する制度と技術の提示に貢献する研究開発を推進しています。本領域は、1月31日に「子どもの”傷つき”に どう気づく?~二次被害を生まないために私たちができること」を研究者とともに考えるオンライントークイベントを開催しました。領域のWebサイトでは、関連する解説動画も公開しています。子どもにかかわる職域の方に広くご覧いただきたい内容となっています。

 

■トークイベント登壇者

大岡由佳准教授

 2010年より武庫川女子大学に着任。これまで『犯罪被害を受けた子どものための支援ガイド』の監訳などを行う。RISTEXでは「トラウマへの気づきを高める“人‐地域‐社会”によるケアシステムの構築」をテーマに取り組みを行う。

 

仲真紀子理事

 理化学研究所 理事/立命館大学 OIC総合研究所 招聘研究教授/北海道大学名誉教授。2008年から司法面接支援室を設置し、司法面接の研究、プログラム開発を行ってきた。RISTEXでは「多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装」をテーマに取り組みを行う。

 

■解説動画

前編(11分):トラウマ(こころのケガ)知ればもっと寄り添える|大岡由佳

後編(11分):子どもの言葉を引き出す「何があった?」の問いかけ|仲真紀子

ドラマ編(5分):TIC(トラウマインフォームドケア)と司法面接-虐待被害生徒の支援過程-

※解説動画の掲載はこちら :https://www.jst.go.jp/ristex/pp/information/000109.html

 

 本領域は、2015年度に活動を開始し、2023年3月で終了します。領域における研究開発の概要や成果などは、領域のWebサイトで詳細にご紹介しています。

※領域のWebサイトはこちら:https://www.jst.go.jp/ristex/pp/

 

オンライントークイベント「子どもの”傷つき”に どう気づく? ~二次被害を生まないために私たちができること」開催報告

 

    

 

子供の傷つき、トラウマにはどのようなものがあるのか

 本イベントは、“子どもの傷つき”にどう気づき、どう対応するのか?をテーマとしており、RISTEXの研究開発領域「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」において研究開発領を薦められてきた大岡由佳先生(武庫川女子大学 准教授)、仲真紀子先生(理化学研究所 理事)をゲストに、『絶対貧困』『ぼくたちはなぜ、学校に行くのか。』などの著者で、RISTEXではアドバイザーとして研究開発プロジェクトをサポートしている作家の石井光太さんに司会進行を務めていただきました。

 冒頭お話し頂いたのは、子どもにとって、どのような出来事がトラウマになりえるのか。たとえば虐待、DVの目撃、学校でのいじめなどがトラウマとなり得ること、そしてトラウマが要因となり、自分を表現できなくなる、学校に行けなくなるといった形で雪だるま式に影響は拡大し、大人になっても影響を及ぼしてしまうということです。

 そのような子どものトラウマ、傷つきにいち早く気がつくことで、この影響の連鎖を止められるかもしれない。それをできるのが教育の現場ではないか。教育現場で子どもの人生に影響を与えうるトラウマ、傷つきに大人はどのように気づき、接していけば良いのでしょうか?

 

学校の先生がトラウマを抱える子どもと接していく方法

 参加者への事前アンケートによると、気になる子どもに話しかけても「何もありません」「大丈夫です」と答えられてしまうことも多いとのこと。そのような時には時間をおいてあらためて声をかけるという選択を取る方もいらっしゃいました。

 これに関して大岡由佳准教授は「クールダウンしてから話すのは大切」だと指摘。なぜならトラウマのある子どもには「3つのF」という反応が見られるからです。3つのFとは「たたかう(Fight)」「逃げる(Flight)」「こおる(Freeze)」のこと。この「3つのF」が働いている時に子どもは自分の状況を話すことができないことが多いそうです。だからこそ先生方の待つ姿勢が重要になります。

 ただし、現代の教育現場において、先生は授業を教えるだけでなく、放課後の部活など多くの業務や個別指導に追われおり、教員の過重労働が問題にもなっているほどです。激務の中で子どもの違和感に気がついても、なかなか一人ひとり丁寧に対応できないのも現状です。

 忙しい教員がどのように接していけば良いのか?これに対して仲真紀子理事は話しやすい関係性を築くことが重要だと語ります。毎日のように「今日は寒いね」など声をかける、些細なことでも会話を続けていくことが信頼につながるとのことです。

 

学校だけでなく地域と連携して何ができるのか?

 教師個人単位ではなく、学校、そして地域全体でどのような体制を作っていけるのでしょうか。学校で違和感のある子どもに声をかけられる体制があるとアンケートで答えた教員は250名におよび、日々情報交換をして子どもの異変を発見しようという体制が見えてきます。

 ただし学校だけでは対応できない問題や、児童相談所などの外部組織と連携することでより最適な対応をとることもできます。仲真紀子理事によると、子どもの虐待に関する通告が学校からあれば、児童相談所の職員は子どもと接触するなどし、学校、警察とも連携をとれるそうです。

 児童相談所だけでなく、地域全体のコミュニティなども重要です。大岡由佳准教授はTICC(トラウマインフォームドケアコミュニティ)という仕組みを作っています。トラウマについて理解する人が増えていくと、いろいろな人の背景を想像でき、それにより共感の輪が広がっていくとのことです。

 また仲真紀子理事は、被害にあったとされる子どもから心理的負担をかけずに事実を聴取する「司法面接」の研究開発を進めてきました。トラウマの原因というのは虐待など大きなものから、他の人から見ると一見些細なものまでさまざま。こうすれば聞き出せるというパターンがあるというよりも、どのような子供に対しても、大人は聞き役になり、ゆっくりと、間をとって、自分の言葉で話してもらうことが大変重要になります。

 最後に学校の先生に向けて一言として、大岡由佳准教授も仲真紀子理事も、先生が犠牲になるのではなく、先生をサポートしていく学校、地域でのサポートが大事だとまとめました。また、質疑応答の中では、子ども同士のピアサポートの可能性に言及し、多様な形で子どもたちが希望を持てる社会づくりが大切だと強調しました。

 子どもの傷つきに気がつき、適切なサポートをしていくことは、子どもが健やかに、安心して生活できる社会のために重要です。今回は教師が子どもの異変に気がついたときにどのように対処していけば良いのか、という話題から、激務になりがちな教員をサポートする外部、地域の体制についても議論されました。教師をサポートする仕組みや、知見を共有する場所は今後も広く求められていくでしょう。第三者から見えにくいトラウマを抱える子ども達に対して、教師だけでなく大人たちはなにができるのか。今回のセミナーに関係して、教師や子どもに関係する方向けに、チラシや動画なども公式サイトで公開されていますので、ぜひご活用ください。

 

 子どもの”傷つき”にどう気づき、対応するか?イベント開催・動画公開より

  https://www.jst.go.jp/ristex/pp/information/000109.html

 

関連情報

 ・「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域

  https://www.jst.go.jp/ristex/pp/index.html

・RISTEX https://www.jst.go.jp/ristex/

国立研究開発法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(JST-RISTEX) 
広報担当