[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

環境と調和したプラスチック利用社会を目指して

(2019年6月15日)

海岸のごみのイメージ
(hamakさんによる写真ACからの写真)

 プラスチックごみに関する記事やニュースが様々なメディアで最近よく取り上げられています。プラスチックは大変身近な素材ですのでこのコラムをご覧になっている皆さんも一度は気にされたことがあるのではないでしょうか。

 様々な記事やニュースを見ると、「プラスチックごみ」、「海洋プラスチックごみ」、「海洋ごみ」、「マイクロプラスチック」等、一見すると似ているけれど少しずつ異なる様々なキーワードが出てきます。これらはいずれもプラスチックを巡る問題に関連するものですが、実は大きく分けて2つの問題がここには含まれています。本コラムではこの点に着目して昨今のプラスチックごみ問題について整理してみます。またその上で、個々の問題の解決方策としてどのようなものが現在考えられているのかについてもご紹介します。最後には私たちのセンターでもこの問題に関する検討を始めたことについて触れます。

 ご存じの方も多いかもしれませんがプラスチックごみに関する問題は国際社会において大変大きな話題となっています。英国の民間団体が2016年に公表したレポートでは、世界のプラスチック使用量は過去半世紀の間に20倍に増加し、今後20年で更に2倍に増える見込みであること、またプラスチック廃棄が今後も増加を続け、流れ着いた海洋に溜まっていくとなれば、2050年までに魚類の量よりも多いプラスチックごみが海洋中に漂うことになる可能性があること等、非常にショッキングな報告がなされました【※1】。こうした事態を受け、産業界はもとより、諸外国の政府もこの問題の解決に向けた取組を強化すべきと考え、国際的な場で議論を重ねています。今年(2019年)の6月に開催されるG20大阪サミットにおいても話題の一つになるとみられています。

 昨今のプラスチックごみの問題は、「海洋ごみ」と「マイクロプラスチック」の2種類に分けられます。まず「海洋ごみ」の問題には、先にご紹介したように私たちの社会の中で生産、消費されたプラスチックの一部が回収されずに廃棄され、最終的に海へと行き着き、海洋中を漂ったり一部に蓄積したりする中で引き起こされる様々な問題が含まれます。例えば自然の生態系への影響です。野生動物がプラスチック片を誤って食べてしまった場合、消化管が傷つけられるような物理的な影響に加え、プラスチック片に含まれる化学物質の影響が懸念されています。こうした影響が食物連鎖を介して生態系に広がる懸念も指摘されています。また(もちろんプラスチックに限りませんが)海岸に大量に打ち寄せられたごみが景観を著しく悪化させるといったことも社会的に深刻な問題です。

 こうした「海洋ごみ」としてのプラスチックの問題は、つまるところ、不法な廃棄や、回収・リサイクルの問題に行き着くと考えられます。従ってその解決に向けたアプローチは、ごみのポイ捨てを如何に低減させるか、またプラスチックごみを減らし、回収・再利用を持続的に行う社会システムを如何に構築できるか、という点になります。科学技術の貢献という観点からは、ごみのポイ捨てに関しては例えば行動科学的なアプローチの必要性が指摘されています。また国や自治体による規制・制度の効果を検証するような政策科学的なアプローチも重要と考えられています。

 環境中に放出されてしまったプラスチック片が微生物の働き等によって時間をかけて分子、原子の単位まで分解されるよう工夫した材料の開発も検討されています。但し、いつか自然に還るからといってポイ捨てして良いわけでは当然ありませんので、「モラルハザード」が起きないよう社会に対して注意を促すことも同時に必要です。

 回収・再利用に関しては、リサイクルが進んでいない国は世界の中には未だ多くあり、そうした状況をどう改善していくかが課題となります。日本はというとリサイクルは極めて進んでいますが、ごみ焼却のエネルギー源等として利用する(「サーマルリサイクル」あるいは「熱回収」と呼ばれます)割合が高く、先進諸国と比べると、「マテリアルリサイクル」と呼ばれる原料として再利用する割合が低い状況です。この点をどう考えるかが重要な論点と言われています。

 もう一つの問題である「マイクロプラスチック」の問題に関しては、科学的に未知なことが多いのが現状です。マイクロプラスチックは5ミリ以下のプラスチック片を指すのが一般的です。そのうちマイクロビーズ等のように意図的にマイクロサイズで製造されたものを一次的マイクロプラスチック、自然環境中で破砕・細分化されたものを二次的マイクロプラスチックと呼びます。マイクロビーズは例えば歯磨き粉や洗顔剤等のパーソナルケア製品と呼ばれるものに含まれています。二次的マイクロプラスチックは、プラスチック製品の生産から消費、再利用といった一連のライフサイクルの中で結果的に生じるものです。

 こうしたマイクロプラスチックが問題視されるようになったのは比較的最近のことです。欧米で2014年頃からマイクロビーズの使用を禁止する動きが活発化し、2015年には国連環境計画(UNEP)が予防原則に従ってパーソナルケア製品中のマイクロビーズの使用禁止を勧告しました【※2】。この動きは自治体レベルで現在も少しずつ広がり続けています。

 二次的マイクロプラスチックに関しては、環境中に広く分布し増加していることが様々な調査研究を通じて確認されつつあります。しかしマイクロプラスチックが野生動物にどのような影響を及ぼしうるかについては必ずしも十分に解明されていません。こうした点を明らかにするための研究が必要とされています。

 プラスチックは20世紀を代表する発明の一つと言う人もいます。私たちの生活の中に深く浸透しており、プラスチックがない生活を想像することはもはや大変難しいでしょう。筆者は今年、プラスチックごみ問題に関する国際会合に出席する機会がありました。生物学、海洋学、化学、社会科学等の様々な分野の研究者らが集まる会議でしたが、そこでの議論においては、「プラスチックをゼロにしよう」という意見よりは、「うまく付き合っていくために何ができるか考えよう」という意見が大半の同意を得ていたように感じました。今後、国際社会の議論はそうした方向に進んでいくのではないかと考えられます。

 最後に筆者が所属する研究開発戦略センターでの取り組みを紹介します。センターでは今年度、プラスチックごみ問題に関する国の研究開発の方向性について議論・検討するチームをスタートさせました。既に国内外で活発な議論が行われており、国内でも、つい最近、「プラスチック資源循環戦略」が策定されました。国としてあるいは国際社会の一員としてこの問題に取り組んでいくにあたって必要な視点や、その実現に向けた科学技術の貢献について、様々な分野の専門家の方々らとの議論等を通じて理解や考えを深め、提言としてとりまとめていく予定です。こうした今後のセンターの活動にも是非ご注目ください。

 

引用:
※1 The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics, World Economic Forum, 2016
http://www3.weforum.org/docs/WEF_The_New_Plastics_Economy.pdf

※2 Plastic in Cosmetics: Are We Polluting the Environment Through Our Personal Care?https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/9664/-Plastic_in_cosmetics_
Are_we_polluting_the_environment_through_our_personal_care_-2015Plas.pdf?sequence=3&isAllowed=y

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
環境・エネルギーユニット フェロー
中村 亮二

 

中村亮二(なかむら りょうじ)
 2008年首都大学東京大学院博士課程修了、博士(理学)。JSTに入構後、英国のビジネス・イノベーション・技能省政府科学局や日本の内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)での業務を経験し現職。