[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

RISTEXにおける社会問題の俯瞰調査への取り組み

(2019年7月01日)

はじめに

 社会技術研究開発センター(Research Institute of Science and Technology for Society, 以下RISTEXと略記)は、科学技術の研究成果を社会に適用して社会問題を解決するために役立つ研究開発を行う組織です[1]。

 ひとくちに社会問題と言っても人口・自然環境・経済など多岐の領域に渡っており、それぞれの社会問題が相互に関連し合っています。また見る人によって(例えば世代の違い、住む地域の違いなど)、社会問題の捉え方は多様化しています。

 そこでRISTEXでは複雑な社会問題の構造を整理し、様々な視点から社会問題の重要度を可視化するための俯瞰調査を、平成22年から実施しています。これまで調査の主目的はRISTEXが取り組む研究開発戦略の方向性を確認することでしたが、今後は産学官における技術戦略策定など、広くご活用いただくことを念頭に置いて進めています。

 RISTEXでは平成30年から「社会俯瞰の取り組み」と題し、調査結果をホームページに掲載しております。その中から「多面的視点による社会的問題の抽出結果の評価」について簡単にご紹介します[2]。

 

社会問題の俯瞰調査方法

 新聞・書籍、インターネットなど様々な情報源から情報収集して社会問題を表すキーワードを抽出し、意識調査や有識者との議論を行いながら社会問題の注目度を決め、結果を俯瞰図などにまとめています。当初は有識者との議論を中心に進めていましたが、より多岐に渡る社会問題を網羅するため、近年では白書や新聞などドキュメントの分析を取り入れています。基本的な調査の流れは以下の通りです。

      1. 社会問題を表現するキーワードの選定
      2. 各キーワードによるドキュメント検索と、得られた文章/記事の分類、更にキーワード間の関連性の可視化・分析
      3. 各キーワードに対する意識調査(一般人年代別・職業別のアンケートより)
      4. 各キーワードの注目度を一般人年代別・職業別に可視化・分析

 

調査結果

 調査結果の例を3つご紹介します。

 図1は社会問題を表現するキーワードを抽出して2階層(大項目17個、中項目149個)に分類し、アンケート項目である「日本にとって問題かどうか」の回答ランキングを示したものです。赤がランキング上位を表しており、例えば大項目でいうと「4.人口」「12.外交・国際」に集中していることがわかります。

 図2は図1で示した中項目キーワード間の関連付けと、一般人全体における重要度/深刻度の認識を、合わせて可視化した俯瞰図です。アンケートを実施した2017年にホットな話題だった「外交/北朝鮮」がひときわ大きく、「人口減少/地方創生・総活躍」「環境/汚染問題」「格差/雇用・女性」などが続いています。

 図3は社会問題に対する認識の高さを、一般人の年代毎に比較したものです。例えば10代・20代は他の世代に比べ「健康/労働とメンタルヘルス」への意識が高く、「環境/エネルギー政策」「災害/国土保全」の低さが目立ちます。一方で、その3つの社会問題への意識が60代・70代とは対照的であることがわかります。

 このように社会問題の全般的なトレンドや、各社会問題に対する年代別・職業別の意識の度合いなどが俯瞰できるようになりました。

 

課題と今後の取り組み

 一方で、幾つかの課題が明らかになりました。

 まずはキーワード抽出に関する課題です。調査結果には、

  • 社会問題を表現するキーワードの抽象度のバラツキ。
    (例)図1における「農林水産業」と「農業生産」
  • 因果関係のわかりにくいキーワード同士の関連付け。
    (例)図2における「人口減少/地方創生・総活躍」と「中小ベンチャー企業支援」

などが散見され、解決に必要な機能・技術を検討しにくいというご意見をいただきました。そこでシソーラス(=単語の上位/下位関係、同義/類義関係を示す辞書)を導入し、より具体的なキーワードの分布を可視化できるよう進めて行きます。

 情報源の選び方に関しても課題があります。理想的には客観的な事実のみから構成される情報源が望ましいですが、実際には提供者の意思が含まれています。そこで様々な情報源のバリエーションを網羅することで客観的な分析に近づくよう、より大規模なデータ処理に取り組んで行きます。

 最近ではクラウドソーシングなどの普及に伴い、WEBによる大規模アンケートが短期間で実施可能になりました。本調査においてもアンケート調査を強化し、対象者数の増加、年代別・職業別以外の層別分析の追加、などを予定しています。

 更には、顕在化していない社会問題の予測なども視野に入れ、皆様にとって活用しやすい調査結果の提供に努めて行きたいと考えています。

 

おわりに

 RISTEXが取り組んでいる社会問題俯瞰調査の概要をご紹介しました。調査結果を広く活用していただくため、報告書やバックデータを無償でご提供しています[2][3]。各報告書の最終ページにご利用方法や問い合わせ先を記載してありますので、お気軽にご連絡ください。是非ともご活用いただき、RISTEXへ更なるご要望などフィードバックをいただけると幸いです。

 

(参考)

[1] https://www.jst.go.jp/ristex/index.html
(2019年7月1日時点)

[2] 多面的視点による社会的問題の抽出結果の評価https://www.jst.go.jp/ristex/public/unit/unit_tamenteki_2018.html
(2019年7月1日時点)

[3] 超スマート社会の社会受容性調査
https://www.jst.go.jp/ristex/public/unit/unit_smart_2018.html
(2019年7月1日時点)

 

 

科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
アソシエイトフェロー
上村 健

 

上村 健(かみむら たけし)
 1985年筑波大学大学院修了。富士ゼロックスとNECにおいて光インターコネクションやパターン認識の研究開発、新規事業開発、産学官連携、技術戦略策定などに従事。2019年より現職。社会問題の俯瞰調査など。