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チューリップ球根が薬剤耐性菌を強化、拡散させる温床に―強力な耐性菌の広まりが、新型コロナ禍で新たな脅威として浮上:筑波大学ほか

(2021年9月2日発表)

 筑波大学生命環境系 萩原大祐准教授と千葉大学真菌医学研究センター 高橋弘喜准教授の研究グループは9月2日、人の肺感染症を引き起こす危険な真菌(アスペルギルス・フミガタス)の治療薬を効きにくくする薬剤耐性菌が世界に広まっており、オランダ産チューリップの球根が温床になっている可能性が高いと発表した。耐性菌はより強力に変異しながら拡散を続けている。新型コロナウイルスやインフルエンザなどとの合併症も一部で起きており、今後ますます治療困難な感染症につながると危惧している。

 この病原真菌は致死率の高い肺アスペルギルス症の主要な原因菌で、治療には主にアゾール系抗真菌薬が使われてきた。ところが近年、この真菌薬に耐性を持つ菌が世界各地で報告されるようになった。

 アゾール系の真菌薬は、植物の病気を防ぐ農薬や、木材の防腐剤などで広く使われており、現代社会では不可欠な存在になっている。

 一方で耐性菌は、アゾール系と似たような構造を持つ別の薬剤にも耐性を示すという厄介な性質がある。関連の農薬を使ったコンポストやハウス土壌などの農地からも発見されている。中でもオランダ産チューリップの球根に付着し、輸出入によって拡散しているとの複数の報告が出ている。

 そこで研究グループは、日本で市販されているオランダ産チューリップの球根の調査にかかった。

 同じ球根から分離した真菌8株に着目してゲノム(全遺伝情報)を解析したところ、複数の変異を併せ持つ複雑な変異株があり、真菌治療薬や農薬に対して強い耐性がみられた。

 遺伝子系統解析にかけると、国内の他の研究グループがチューリップ球根から分離した株と、筑波大グループが分離した株が遺伝的に近いことが明らかになった。異なる菌株が球根の限られた空間に共存し、ゲノムの多様性に寄与していたとみられる。

 チューリップの球根の頻繁な輸出入によって、薬剤耐性株が世界中に伝搬している事実はあまり知られていなかった。今後、球根を通じてより強力な薬剤耐性株が出現し、拡大することも予想されると警告している。