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金属水素化物の形成を支配する因子を発見―水素吸蔵材料の探索の有力な指針に:物質・材料研究機構ほか

(2021年8月30日発表)

 (国)物質・材料研究機構と東京工業大学の共同研究グループは8月30日、水素社会で重要な役割を果たす金属水素化物の形成で、母体金属の硬さが形成能の支配因子となっていることを見出したと発表した。この知見は、金属水素化物の形で水素を蓄える水素吸蔵材料の探索の有力な指針になるという。

 水素社会では水素を大量に含有する金属水素化物が水素貯蔵や発電など様々な技術・製品に使われる。金属水素化物は金属と水素が化合した状態のことで、結合様式や特性は様々であることから、優れた材料の開発に向けて近年盛んに研究されている。しかし、探査指針が不明なため、研究開発は試行錯誤なのが現状。

 研究グループは今回、水素化物の生成などで極めて特異な性質を示すパラジウム(Pd)という金属に着目し、その特異性の原因解明を試みた。

 Pdは、鉄、コバルト、ニッケル、銅、金、銀、白金などと同じ遷移金属と呼ばれている金属元素の一つで、周期表上、これらの金属類と一領域を形成している。

 ところがこれらの遷移金属は通常の条件では水素化物を形成しないのに対し、Pdだけが例外的に水素化物を生成する。また、金属が水素を吸蔵すると水素脆化(ぜいか)と呼ばれる機械的強度の劣化が起きるが、Pdは水素脆化が小さいという特性を持つ。さらに、水素分子を選択的に透過する性質があり、水素透過材料として高純度の水素ガスの精製などに使われている。

 研究グループは第一原理計算と呼ばれる理論計算を用いて、Pd水素化物のこうした特異性の解明に迫った。

 その結果、硬さの指標ともいえる弾性率が小さい、いわゆる軟らかい金属、Pdのような金属は水素化物を作りやすい傾向があることを見出した。

 また、硬さによる水素化の判定は、金属、合金だけではなく、金属間化合物にも適用できることが明らかになった。

 これらの成果は、新たな合金、金属間化合物の潜在的水素吸蔵能力の迅速な判定に貢献するという。