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世界最高品質のグラフェンの製造法を開発―次世代通信システム用のテラヘルツ帯デバイス実現へ:東北大学電気通信研究所/信越化学工業/高エネルギー加速器研究機構

(2021年2月3日発表)

 東北大学電気通信研究所と信越化学工業(株)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、(国)情報通信研究機構などの研究グループは2月3日、世界最高水準の品質・物性を持つグラフェンの製造技術を開発、このグラフェンを用いて、ギガヘルツ(GHz)の1,000倍の周波数のテラヘルツ(THz)帯で動作する次世代通信システム「Beyond 5G」用のTHzトランジスタを作製したと発表した。

 グラフェンは炭素原子1、2個の厚みの2次元炭素結晶物質で、電子が全物質中で最も高速に移動できるという優れた物性を持つ。また、希少元素や有害元素を含む化合物半導体とは異なり、原料は安価で環境負荷が小さいという特長がある。

 このため、Beyond 5G用のTHz帯で動作するグラフェン・トランジスタの実現に向けた研究が行われているが、グラフェン・デバイスは物質製造コストが高く、期待通りの性能が得られない、などの課題を抱えていた。

 また、研究グループはシリコン(Si)エレクトロニクスとの融合を目指してSi基板上にグラフェンを廉価に直接成長させるグラフェン・オン・シリコン(GOS)技術を世界に先駆けて開発したが、得られるグラフェンの品質に課題があり、GOSを用いたTHzトランジスタの開発には至っていない。

 研究グループはこの解決を目指して今回、信越化学工業が開発したハイブリッドSiC基板を用い、その上にグラフェンを成長させるというグラフェン新製法を開発、世界最高水準の品質を備えたグラフェンを廉価(れんか)に製造することに成功した。

 ハイブリッドSiC基板プロセスでは一つのバルクSiC基板から100枚以上ハイブリッドSiC基板を作製でき、3インチ以上の大面積化が可能。これによりグラフェン製造コストが従来の100分の1以下に削減できる。得られたグラフェンの品質や物性は世界最高水準であることが放射光施設の光電子分光装置などによって確認された。

 この高品質なグラフェンを用いて高性能トランジスタを開発、動作特性の解析から、開発したトランジスタはTHz帯で動作し得ることが示されたという。

 Beyond 5Gに不可欠なTHz帯で動作するデバイスの商用化開発に道を開く成果が得られたとしている。