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過去最小の磁気渦粒子スキルミオンを実現―次世代の情報担体としての活用に期待:理化学研究所ほか

(2020年5月18日発表)

 (国)理化学研究所と東京大学、物質・材料研究機構、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは5月18日、次世代の人工知能コンピュータの記憶や演算を担う情報担体として期待されている磁気渦粒子「スキルミオン」を、これまでとは異なる発現条件の下で生成できることを見出し、過去最小のスキルミオンの実現に成功したと発表した。

 極小サイズのスキルミオンの設計・創成に道を開く成果で、超高密度な情報担体としてのスキルミオンの今後の展開が期待されるとしている。

 スキルミオンは位相幾何学的に特徴づけられる渦状の構造を指し、磁性体中に現れるスキルミオンを磁気スキルミオンと呼んでいる。磁気スキルミオンは電子スピンが渦巻き状に配列して渦状構造を形成しており、安定した一つの粒子のように振舞う。

 この磁気スキルミオンは電流によって効率的に動かせるため、超低消費電力の次世代の情報担体候補として盛んに研究されている。しかし、スキルミオンを発現する物質についての報告例はまだ少なく、極小のスキルミオンを普遍的に生み出せる物質設計指針の確立が求められていた。

 研究グループは今回、ガドリニウム(Gd)、ルテニウム(Ru)、シリコン(Si)から成る希土類合金の磁性体に着目し、この合金における磁気スキルミオンの生成を調べた。

 これまでは、空間反転対称性の破れとか幾何学的フラストレーションといった性質の存在がスキルミオンの生成、安定化に必須と考えられてきたが、この希土類合金にはそれらは存在しない。にもかかわらず、磁場をかけていくとスキルミオンの正方格子状態が実現していることが見出された。

 この新しいスキルミオン生成機構については、最新の理論研究で、結晶中を自由に動き回る遍歴電子が媒介する相互作用を利用することで高密度な極小サイズのスキルミオンを生み出せると予想されており、今回の研究ではそれが示されたという。

 今回の発見は、ナノメートルスケール(1nmは10億分の1m)の極小のスキルミオンを普遍的に生み出すための新たな設計指針を与えるもので、次世代情報担体としてのスキルミオンの応用への貢献が期待されるとしている。