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ツキノワグマの“食事メニュー”はオス・メス、年齢で違う―成熟したオスはシカの肉をメスの数倍も食べている:東京農工大学/東京農業大学/森林総合研究所

(2020年5月12日発表)

 東京農工大学、東京農業大学、(国)森林総合研究所の共同研究グループは512日、ツキノワグマの食生活を調べたところ、オス・メス、年齢で“食事メニュー”が異なることが分かったと発表した。各地で問題になっている人里へのツキノワグマ出没の原因を明らかにするのに利用できると見られ、ツキノワグマの保護管理に役立つものと期待される。

 日本には、北海道のヒグマと本州・四国のツキノワグマの2種類のクマが生息している。環境省が「都府県調査結果を積み上げた推定数」として公表している全国のツキノワグマの生息数は13,00021,000頭で、人里への出没が毎年各地で数多く報告されている。

 今回の研究は、2003年から2013年にかけて栃木県と群馬県にまたがる足尾・日光山地で学術捕獲された148頭のツキノワグマの体毛をサンプルにして農工大大学院グローバルイノベーション研究院の長沼知子特任助教らが共同研究グループを組んで行った。

 食物の種類によって含まれる安定同位体(環境中に安定して存在する同位体)の割合は異なるため体毛など体の組織の安定同位体比を測定すれば過去に食べた物の種類を推定できる。研究はその原理を利用して148頭の体毛を分析、夏と秋の食べ物の構成割合を推定した。

 その結果、分かったのがオスとメスの食事メニューの違い。夏のツキノワグマは、野生のサクラやキイチゴの果実、蟻を食べることが知られているが、成熟した5歳以上のオスはニホンジカ(鹿)を多く捕らえて食べ、その量はメスの数倍にもなることが判明。オスの方がメスより体が大きく、それが食べ物を巡る競争に有利に働き、果実や蟻より魅力的な好物のシカ肉をより多く得ているのではないかと研究グループは見ている。

 秋になると冬眠中に必要なエネルギー源の脂肪を蓄えるため、オスもメスも共に年齢を問わずドングリ中心の食事に変わるが、5歳以上のオスはドングリに頼りきらず豊作の年でも一定の量の昆虫やシカを食べていることも分かった。

 この結果から同じ地域に生息するツキノワグマであっても性別、年齢によって異なる食事メニューの食生活を送っていることが明らかになったといっている。