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静電気を貯める液体を開発、ウエアラブル素子を実現―脳波、心拍や筋電、触覚センサーなどの医療応用に期待:物質・材料研究機構ほか

(2019年9月30日発表)

 (国)物質・材料研究機構と(国)産業技術総合研究所は9月30日、静電気を半永久的に貯められる液体状の荷電体材料(エレクトレット材料)を開発し、柔らかい電極と組み合わせることで伸縮のできる振動発電素子を世界で初めて実現したと発表した。人体の腕や胸などに装着し、電池がなくとも動かせる脈拍・心拍センサーなどへの医療応用が期待されている。

 人の体に装着して、電池レスで動かせるウエアラブル用素子の実用化が近い。そのためには軽量で伸縮自在、柔軟性などに富んだ新規材料が必要になる。これまでの高分子フィルムや無機材料を使ったエレクトレット材料では、体の曲線に沿った自由な形状変更がしにくいなどの難点があった。

 エレクトレット材料とは、電界をかけなくとも素材の表面付近にプラスやマイナスの電荷を貯めておける材料のことで、電磁石(マグネット)にならってエレクトレットと呼ばれる。

 今回は、赤血球などに含まれるポルフィリンと呼ばれる有機化合物を、柔軟で電気を通さない構造物で包むことによって液体であっても安定して電荷を保つことのできる材料を開発した。

 これに高電圧をかけて静電気を帯電させたあと、伸縮性のある布地にしみこませた。ポリウレタンに銀メッキ繊維で配線した柔らかい電極ではさむと、折り曲げが自在にできる振動発電素子ができた。

 物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の中西尚志グループリーダーらと、産業技術総合研究所センシングシステム研究センターの吉田学研究チーム長らが協力して開発し、その性能を確かめた。

 この素子を指で押すと100〜200mVの電圧が発生し、1か月半以上も安定して動いた。また交流電圧(100V、1kHz)をかけると200Hzの音を発信し、音波アクチュエータとしても使えることを世界で初めて実証した。

 今後、静電気をもっと長く蓄えられるように改良を重ね、脳波、心拍センサーや筋電センサーなどの医療分野への実用化を目指している。