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トマトの虫害を天然物質で予防―植物の免疫力を高める新しい害虫防除剤を目指す:農業・食品産業技術総合研究機構

(2019年5月8日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は5月8日、タバコの葉から採った天然物質をトマトなどに与えると、害虫の被害が抑えられることを見つけたと発表した。植物が本来持っている免疫力を高めたとみられる。殺虫剤の連続使用で生じる薬剤抵抗性も回避できるため、企業と連携して新しい害虫防除剤の商品化を目指す。

 国連食糧農業機関(FAO)の調査では、世界の農作物の10%から30%が害虫被害を受け、収量低下や品質低下をきたしており、せっかく手塩にかけて育てても、3分の1近くが害虫からダメージを受けているという。殺虫剤も連続使用すると害虫が薬剤抵抗性を持つという厄介な問題があった。

 そこで農研機構は、植物や微生物などの天然物から防除効果を持つものを探した。その結果、タバコの葉からカロテノイドの一種「ロリオライド」に有効成分が含まれていることを見つけた。

 カロテノイドは微生物や動植物に多い天然色素で、カロテンを含む。ロリオライドはカロテンが分解されるときに生じると考えられている。

 トマトの葉をロリオライド溶液に1昼夜漬けたあと、害虫のナミハダニのメスを放った。5日後に対策なしと比較したところ、ロリオライド溶液に漬けたものは明らかに害虫の生存数と産卵数が減っていた。他の害虫のミカンキイロアザミウマなどでも試したが、同じような効果が見つかった。

 ロリオライド自体には直接的な殺虫効果はない。このため植物が本来持っている免疫力(害虫抵抗性)を高めて被害を抑えるという薬剤のプラントアクティベーター(抵抗性誘導剤)として働いたとみている。

 プラントアクティベーターは防除効果の持続期間が長く、多くの害虫に対しても効果がある。国内ではイネいもち病などの病害に有効な農薬として市販されているが、害虫用のプラントアクティベーターとして登録されたものはない。