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高温超伝導を用いたがん治療用加速器電磁石の機能を実証―加速器の小型化、省エネ化で粒子線治療の普及目指す:京都大学/東芝エネルギーシステムズ/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2018年12月12日発表)

 京都大学と東芝エネルギーシステムズ(株)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、量子科学技術研究開発機構の共同研究グループは1212日、高温超伝導物質で作った粒子加速器電磁石の機能実証に成功したと発表した。粒子線がん治療装置の小型化や省エネルギー化につながる成果で、粒子線がん治療の普及への貢献が期待されるという。

 粒子線がん治療は、炭素イオンや陽子などの粒子を高速に加速し、多方向からがん病巣に照射してがんを退治する放射線治療法の一種。

 この加速器に用いられる電磁石を超伝導転移温度の高い高温超伝導物質で作ると、絶対零度近くまで冷やす必要がある低温超伝導物質で作るのに比べて、冷却エネルギーを削減できるとともに、超伝導状態が壊れにくいというメリットがある。

 しかし、高温超伝導物質は脆いセラミックスであるため、コイルに巻くのに高度な技術を要することから、これまで高温超伝導物質製の粒子加速器電磁石は実用化されていない。

 研究グループは高温超伝導線でコイルを製造する技術を開発し、今回、この技術を用いて高温超伝導電磁石を作製、その機能を調査・実験した。

 その結果、優れた機能が備わっていることを確認した。

 一つは、2.4T(テスラ)の磁界による炭素イオンビームの誘導。粒子ビームを円形に加速するにはビームの軌道を大きく曲げる必要がある。今回、高温超伝導磁石で発生した最大2.4Tという磁界でビームの偏向、誘導ができることを確認した。

 二つ目は電磁石の安定性の実証。粒子ビームがコイルに飛び込み、それによって電磁石の超伝導状態が破れると治療の中断が避けられない。コイルへのイオンビーム入射実験の結果、超伝導状態は破れず、電磁石は安定して動作し続けることを確認した。

 三つ目は磁界の繰り返し変化に対する安定運転の実証。電磁石が発生する磁界を周期的に上げ下げしても電磁石を安定運転できることを確認した。

 今後、超伝導線の内部で起こる交流損失の低減などの研究開発に取り組み、粒子線がん治療装置の超小型化、省エネ化の実現を目指したいとしている。