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乳がん幹細胞に新指標―再発・転移の原因狙い撃つ治療に道:筑波大学

(2018年9月28日発表)

 筑波大学は928日、乳がんの再発や転移の原因になるがん幹細胞を見分けられる指標物質を見つけたと発表した。乳がんの細胞集団に休眠状態で一定の割合で存在し、いったん目覚めると活発に増殖して腫瘍を作るがん幹細胞が見分けられれば、それを狙い撃ちにして再発や転移を防ぐ新たな治療法の開発につながる。

 筑波大 医学医療系の加藤光保教授、沖田結花里助教らの研究グループが見つけたのは、細胞膜を構成するGPNMBと呼ばれる膜たんぱく質。乳がんの細胞集団中に一定の割合で存在する細胞にだけ表面に局在していることを確認した。

 研究グループは、乳がん細胞を生体内に近い状態で培養、細胞の性質を詳しく解析した。まず増殖が停止しているがん細胞と、増殖中のがん細胞が混在する不均一な細胞集団をつくり、これをGPNMBのある細胞とない細胞に分けて両者の違いを調べた。

 その結果、細胞膜にGPNMBのある細胞では、がん細胞の転移・浸潤に関わる「上皮間葉転換(EMT)」と呼ばれる変異に関連した遺伝子が強く働いていた。また、それらの細胞は増殖のための足場がなくても増殖し続けるという、がん細胞に特徴的な性質を持ち、二次的な腫瘍形成をする能力が高いことも分かった。このことから、研究グループは細胞表面GPNMBが乳がん幹細胞の性質を引き出すのに重要な働きを果たしていると見ている。

 がん細胞は転移や再発の原因となる数%以下のがん幹細胞と、それ以外の細胞で構成される不均一な細胞集団だが、がん幹細胞は増殖が遅いため抗がん剤や放射線治療に強い抵抗性を示し、転移や再発の原因になっていると考えられていた。

 研究グループは「細胞表面GPNMBを標的とすることで、がん幹細胞を標的とする新しいがん治療法の開発に結びつけて行きたい」と話している。