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遺伝子内のアミノ酸が睡眠時間と眠気を制御―マウスを使った実験で明らかに:筑波大学

(2018年9月25日発表)

筑波大学は9月25日、遺伝子内のアミノ酸がマウスの睡眠時間と眠気を制御していることが実験で分かったと発表した。

 人間は、人生の3分の1余りの時間を睡眠に費やしている。しかし、そのメカニズムは未だ謎に包まれた部分が多く、眠気の実体や睡眠量が一定に保たれる仕組みなども解明されていない。

 今回の研究は、東邦大学、米国テキサス大学サウスウエスタン医学センターと共同で行ったもので、ランダムな突然変異を導入した多数のマウスを「フォワード・ジェネティクス」という手法でスクリーニング(選別)して覚醒時間(目覚めている時間)の短い「Sleepy変異家系」を見つけ出し、アミノ酸のセリンに行き着いた。

 研究では、Sik3と呼ぶ遺伝子のセリンに着目、最新のゲノム編集技術(CRISPR/Casシステム:クリスパー・キャスシステム)を使ってそのSik3遺伝子の551番目のアミノ酸であるセリンを別のアミノ酸に置き換えて(置換)睡眠・覚醒がどうなるかを調べた。

 すると、置換でマウスのノンレム睡眠(深い眠り)の時間が大幅に延長し、さらに眠気の指標とされている脳波の徐波量が顕著に増加することが分かった。

 脳波は、脳の神経細胞から生じるわずかな電流。徐波は、デルタ波ともいう周波数が0.5~4Hz(ヘルツ)の電流だが、スペクトル解析を行ったところセリンをアラニン(アミノ酸の一種)にした系、アスパラギン酸(同)に置換した系共1日24時間を通じて徐波量の増大が見られた。

 マウスは夜行性なので、野性のマウスは暗い時の覚醒時間が長いが、セリンを置換した2つの系では特に暗い時の覚醒時間の減少が大きく、ノンレム睡眠の時間が著しく延びることが分った。     

また、置換した2つの系は、睡眠時間が延びただけでなく、常に睡眠要求量(眠気)が高く、日中ずっと眠気にさらされていることも判明した。

 研究グループは、こうした結果からSik3遺伝子の551番目のアミノ酸セリンがマウスの睡眠時間や眠気の制御で重要な役割を果たしていることが分かったとし「睡眠・覚醒制御の分子ネットワーク解明への糸口となる情報が得られた」と結論している。