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害虫から植物を守る新タイプの機能を発見―クワの葉の乳液に含まれるたんぱく質、人などの脊椎動物には安全:農業・食品産業技術総合研究機構

(2018年7月17日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門の浅岡潔部門長らは717日、クワの葉からしみ出る白い乳液が昆虫の消化管の働きを抑え、成長できなくなる機能を発見したと発表した。クワはカイコのエサになるが、カイコ以外の昆虫には成長を抑える働きがあり、これまでの農薬や天敵を使ったやり方とは異なる新たな害虫防除剤になると有力視している。

 クワの葉や柄の切り口から出る白い乳液は特殊なたんぱく質(MLX56様の物質)でできており、昆虫の成長を阻害する効果が知られていたが、そのメカニズムは不明だった。

 このたんぱく質をエサに混ぜて、ガの幼虫に食べさせたところ0.010.04%の極めて低い濃度でもはっきりと成長が止まった。

 昆虫の消化管の内壁には、囲食膜(いしょくまく)というチューブ状の極薄の膜がある。エビやカニの殻の成分と同じキチンでできていて、体内に入った食物を包んでいる。特殊なたんぱく質入りの餌を食べさせると囲食膜と結合して肉厚になり、消化能力を衰えさせた。

 一方、キチンとの結合を抑える薬剤とこの特殊たんぱく質を混ぜて幼虫に食べさせたところ、囲食膜は肉厚にならなかった。このことからたんぱく質が囲食膜を厚くし、幼虫の消化能力を低下させ、成長を抑えるとみている。

 こうした昆虫の消化機能を抑えるものはこれまでには報告例がなく、全く新しいタイプの害虫防除技術になりそうだ。人を含む脊椎動物の体内にはキチンも囲食膜もないため、特殊なたんぱく質は人や家畜に対する安全性が高いと考えられる。

 今後、植物から同様のたんぱく質を探し出したり、構造を変化させた人工たんぱく質を合成したりして、より安全性が高い害虫防除剤の開発を目指す。