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3Dプリンティング技術を使って入れ歯製造の実用化―これまでの歯科鋳造に代わる新しい物づくりが可能に:産業技術総合研究所ほか

(2018年7月19日発表)

 (国)産業技術総合研究所 生体材料研究グループの岡崎義光上級主任研究員らと(株)アイディエス719日、3Dプリンティング(三次元積層造形)による入れ歯(人工歯)製造材料として、コバルトクロム合金粉末の薬事承認を厚生労働大臣から取得したと発表した。これまでの歯科鋳造技術に代わって破損しにくく、安全で患者に最適な信頼性の高い入れ歯を、短時間で製造できるようになる。

 3Dプリンティングは、歯科医師の指示に基づき患者の口の中をスキャナー装置で読み取り、入れ歯の立体構造をデザインする。このデータに基づいてコバルトクロム合金粉末にレーザー光を走査しながら照射、加熱し、合金粉末を溶かして結合させ一層分(50µm(マイクロメートル、1µm100万分の1m)以下)を形成する。

 一層ずつ位置を下げながら、同じ工程を繰り返しデザイン通りの入れ歯を作る。全体の工程はわずか4工程に短縮できる。従来の鋳造法は、入れ歯の型取り、石膏原型、模型などを経て鋳造、適合・研摩まで7工程が必要だった。

 医療機器(材料)としての承認申請は、歯科材料製造販売会社のアイディエスが担当し、産総研は材料の耐久性やミクロの組成、力学的安全性など物理、化学的性能の評価を担当した。

 従来の鋳造法は各パーツを溶接し一体化するため、時間と手間がかかり、製品内部に細かい空洞などができることがあった。

 これに比べ、三次元積層造形法で作成した入れ歯は電子顕微鏡で観察しても粒状の細かな組織となり、引っ張り強度と延性(材料が破壊されずに引き延ばされる性質)が従来に比べて優れていた。また酸や塩化ナトリウムによる溶けやすさも従来法の1,000分の1と耐久性が高かった。

 寸法精度も優れ、複雑な立体造形にも適していて、複数のものを同時に造形することも可能になる。

 今後、積層造形技術の保険適用を目指すとともに、新材料のコバルトクロム合金の国産粉末での認可を目指す。さらにアレルギー患者のためにチタン材料を使った人工歯の開発も目指している。

 デジタル歯科技術は、最近の歯科技工士の高齢化や歯科技工所の閉鎖などに歯止めがかけられ、歯科大学の教育ツールとしても活用できるとしている。