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き裂が高速で完治する自己治癒セラミックスを開発―航空機エンジン部材への応用の可能性高まる:物質・材料研究機構

(2017年12月21日発表)

 (国)物質・材料研究機構と横浜国立大学の研究グループは1221日、き裂が素早く完治する自己治癒セラミックスを開発したと発表した。フライト中に生じたヒビがひとりでに治る航空機エンジン部材の開発が期待できるという。

 自己治癒セラミックスはヒトの骨と同じように、入ったき裂がひとりでに治癒するセラミックス。アルミナ(Al2O3)のような酸化物系セラミックスの内部に、炭化ケイ素(SiC)などの非酸化物系セラミックスが分散している物質で、1995年に横浜国大の研究グループが発見した。

 以来、ジェットエンジンのタービン翼用の材料として世界的に注目されてきたが、これまでは1,200℃~1,300℃の限られた温度領域でしか、き裂を短時間で完治することが出来ず、また治癒の詳しい仕組みは明らかでなかった。

 今回研究グループは、治癒の機構を解明するとともに、従来材では1,000℃で1,000時間かかっていたき裂の治癒時間を、最速1分程度で完治させることに成功した。

 自己治癒の進行には骨の場合と同じように、いくつかの素過程があることを見出した。き裂が入ると空気中の酸素と炭化ケイ素が反応して酸化物(SiO2)を生成する(炎症)。次に、この酸化物と母体のAl2O3が反応し、粘度の低い融体を一時的に生成してき裂を充填する(修復)。最後に融体が機械的に強固な結晶相を生成、強度を回復する(改変)。

 修復・改変期の反応速度の高速化を探索したところ、高速化は治癒活性相という新たな物質をごく少量添加すると達成できること、治癒活性相として酸化マンガン(MnO)が極めて有効であることを見出した。

 治癒活性相のMnOAl2O3の結晶粒界などに局在させたところ、最速1分でき裂を完治できる自己治癒セラミックスが得られたという。

 研究グループは今回の成果をもとに、優れた自己治癒機能を自在に付与した「割れが入っても壊れない」革新的な高温用セラミックスの実現を目指すとしている。