[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

ナシの発芽不良の原因は、温暖化による凍害:農業・食品産業技術総合研究機構

(2017年9月19日発表)

画像

花芽の枯死による発芽不良の様子 左側:枯死芽、右側:健全芽
©農研機構果樹茶業研究部門

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は919日、九州地方で発生しているニホンナシ「幸水」の発芽不良の原因が、冬の寒さに耐えきれなくなった花芽の「凍害(とうがい)」によるものと発表した。温暖化の影響とみられる。肥料や堆肥の散布時期をこれまでの秋冬季(しゅうとうき)から翌春にずらす対策をとることで、発芽不良が大幅に改善された。温暖化被害に対処する有効な適応技術として注目される。

  花芽には秋から冬にかけて気温の低下とともに、氷点下でも凍結、枯死しないように徐々に寒さになじみ耐凍性を高めていく性質がある。

 ところが温暖化が進み、秋冬季に気温が十分低下しなくなったため、花芽の耐凍性が弱ってしまった。ナシの花芽の凍害発生危険温度(50%が凍害を受ける温度)は、12月の厳冬期でも−6℃前後と高く、この時期の最低気温に近かった。

 凍害発生危険温度が低いほど耐凍性は高い。比較した茨城県では、凍害発生危険温度は−16℃前後と低く、最低温度−9℃に対して十分な耐性があった。

 農研機構と鹿児島県農業開発総合センターが、秋冬季の花芽の窒素含有量と耐凍性の関係を調べたところ、窒素含有量が多いほど耐凍性が低いことがわかった。窒素を含む肥料や堆肥の散布を春先に延期することによって、耐凍性を高めることができた。

 温暖化が進行すると、九州地方にとどまらず全国のナシ産地でも同じような発芽不良被害が発生する心配がある。肥料や堆肥を翌春に散布することは、すぐにでもできる簡単な対策であり、そのためのマニュアルを作成し被害に備えるよう農家に呼びかけている。