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火星の月にかけらをとりに(1) ~火星の月はどうやってできた?

(2016年9月15日)

©NASA
MRO探査機によるフォボスの接近画像

 「のぞみ」という名の希望にあふれた名前の探査機を知っている人は少ないかもしれない。1998年に打ち上げられ火星周回軌道を目指した日本初の火星探査機の名前である。地球を離れて火星への長旅の途中で機器に異常が起きたために2003年末に火星に近づいた時にその周りを回る軌道に投入することはできなかった。
 それからおよそ15年、火星に行けなった「のぞみ」の雪辱をはらすべく、「はやぶさ」や「はやぶさ2」で培ったサンプルリターンという武器を使い火星とその月を探る新たな計画が研究者たちによって着々と練られている。

 これまで、2つある火星の月(フォボスとダイモス)は、太陽系形成のころ火星のそばまでやってきた原始的な小惑星を火星が捕獲したものと考えられていた(図の捕獲説)。とすると、そこからかけらを持ってきても、現在「はやぶさ2」が向かっている「りゅうぐう」などの小惑星と同じような物質ということになりあまり意味が無くなってしまう。
 ところが小惑星を捕獲したにしては、その軌道が火星の赤道面にぴたり一致して、きれいな円軌道を描いていることに疑問の声があがった。コンピュータシミュレーションの結果、そんな軌道を作ることが確率的に非常に難しい(1,000万分の1:サマージャンボ宝くじ1等が当る確率)こともわかってきた。

 太古に火星に直径1,000kmもあるような巨大な天体が衝突、飛び散った膨大な破片が再び凝集して火星の月が出来たという研究がすすめられて、この7月にネイチャー・ジオサイエンス誌に最新の結果が公表された。(図の衝突説)

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捕獲説と衝突説  黒川宏之氏(東京工業大学・ELSI)作成

   その研究を主導した玄田英典さん(東京工業大学・地球生命研究所)に火星の月のできるまでを聞いた。

 火星の北半球にある「ボレアレス平原」という低地が太陽系でも最大の巨大クレータの跡であると考えられている。それを形作った巨大衝突(ジャイアントインパクト)で2つの月を作れないかという試みはこれまで何度もなされてきたが、なかなか今の火星のフォボス、ダイモスのような小さい衛星が2つだけできるような解が得られなかった。

 今回新たな手法を用いたコンピュータシミュレーションによって二つの小さな月ができることが確認されたという。

 そのシナリオはこうだ。

・40億年前 直径1,000kmにも及ぶ巨大天体が火星に衝突
・無数の破片(フォボスの10,000倍もの質量)が火星軌道にばらまかれる、周辺に破片の円盤が形作られる
・円盤の中で比較的大きな月(フォボス1,000個分の重さを持つ)が作られる
・大きな月の作用によって、破片の円盤の外周辺に2つの月(フォボス、ダイモス)が形作られる
・大きな月は火星の潮汐進化により火星へ落下、消滅
・フォボスとダイモスだけが残って現在の姿に 

 こんなダイナミックな歴史を持つかもしれない火星の月にサンプルを取りに行く計画について、次回に紹介する。                                    

 (続く)

火星の月ができるまでのシナリオ(英語版)はyoutubeで公開中
https://www.youtube.com/watch?v=iAgdkMPuCWc

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。