[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

SDGs達成に向けた社会課題解決、ELSI対応に貢献する研究開発提案を募集中

(2021年5月22日)

 近年、国内における少子高齢化や地域経済社会の疲弊、自然災害等のリスクが大きな社会問題となっています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、感染症と自然災害の複合災害など社会問題が複雑化しています。持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals(SDGs)をはじめとするこのような複雑化した現代の課題解決のためには、自然科学、人文・社会科学といった学問分類にとらわれずに必要な知見を動員する総合知によるアプローチ、さらには社会的課題に直面している様々な人々を巻き込んだ共創が必要です。また、新たな科学技術を社会へ普及させていくためには、科学技術の発展に伴うELSI(倫理的・法的・社会的課題)の対応も求められています。このような背景を踏まえ、RISTEXでは社会課題の解決やELSI対応に貢献する公募型の研究開発を推進しています。現在、①社会的孤立・孤独の予防(2021年度新規テーマ)、②技術シーズ活用による地域課題解決、③新興科学技術のELSI対応、に貢献する研究開発提案を募集しています。本稿では、これら募集中のプログラムに加えて、すでに今年度は募集が終了した、④エビデンスに基づく政策形成、を含めた4つのプログラムについて紹介していきます[1]

図1 2021年度公募プログラム一覧(概要)

①SOLVE for SDGs「社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築」

 今日の日本は、少子高齢化、核家族化などによる世帯規模の縮小や、経済の低成長化等による非正規雇用の労働者の増加など、さまざまな社会構造の変化に直面しています。

 また、2020年には新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、家庭・学校・職場・公共施設など様々な場において、個人間の物理的な距離の確保が必要となったことで、これまで社会的孤立・孤独リスクが高いと考えられていなかった状況にある人びとも、社会的孤立・孤独に陥る可能性があることが注目されました。RISTEXが2020年度に実施した一般市民6,000名を対象としたコロナ禍における社会問題意識調査においても、自殺やメンタルヘルスなど、社会的孤立・孤独に関連する問題が多く選ばれています。

 これらの問題の解決に向けて、本プログラムでは、オンライン化が進行し、人と人の信頼関係や合意形成のあり方が変容した新しい状況下での社会的孤立・孤独メカニズムを理解し、新しい社会像を描出すること、人や集団が社会的孤立・孤独に陥るリスクの可視化と評価手法の開発を行うこと、これらが社会的孤立・孤独を予防する社会的仕組みづくりにつながり、機能することを目標としています。そのため、人々の行動・心理・社会的背景の分析や、歴史、哲学、人類学的な検討など、幅広い人文・社会科学分野の知見も活用した根源的なアプローチをとります。また、これらの研究知と現場知を融合させ、国内の地域や、学校、職場、コミュニティなどの施策現場でのPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施します。その際、既存の施策の評価等を通した研究知と現場知の相互作用の促進、様々な種類の社会的孤立・孤独の横断的・俯瞰的分析、ICTや芸術分野など、異分野との融合的な取組を積極的に推進することが期待されます。

 想定される新たな社会的孤立・孤独に関する問題として、例えば、新入学、就職、新生活の開始等による環境変化と、オンライン授業、テレワークの拡大といったソーシャルディスタンスの影響による、都市型の若者の社会的孤立・孤独、のような事例があります。

②SOLVE for SDGs「シナリオ創出フェーズ/ソリューション創出フェーズ」

 政府が定めるSDGsアクションプラン2021[2]では、SDGs達成のためにSTI(科学技術イノベーション)が大きな役割を果たすことが期待されています。また、SDGsが掲げる2030年の目標達成に向けては既存のSTI活用による迅速な対応が求められます。さらに、SDGsは地球規模の課題解決を目標としていますが、それだけではなく、地域レベルの課題解決を積み重ね、その成果を地域から日本全国へ、そして世界へと展開させていくアプローチが重要です。そこで本プログラムでは、STIを活用して地域における社会課題の解決策を実証し、その成果を国内外の他地域に適応可能なソリューションとして提示することを目標としています。また、地域における社会課題を特定し、解決策を創出するために、研究代表者と地域で実際の課題解決に当たる協働実施者が共同で研究開発を行います。

 具体的な取組事例として、平時の保健・福祉と災害時の防災・危機管理の分断の解消を目指す研究開発プロジェクトを紹介します。本プロジェクトでは災害時、自力での避難が困難な災害弱者問題の根本原因が平時の保健・福祉と災害時の防災・危機管理の取り組みの縦割りにあるとの認識の下、災害時ケアプランを作成できる福祉専門職を育成するための教育プログラムを構築しました。構築した教育プログラムを継続的に発展・維持し、日本全国に横展開するための基盤となる組織である協議会を設置するなど事業モデル化を図り、また、制度化への取り組みとして、内閣府中央防災会議に「個別避難計画策定の努力義務化」を提言し、その内容が災害対策基本法等一部改正(令和3年5月公布・施行)に組み込まれました。今後、実際に事業モデルの全国展開を行っていくとともに、海外展開も視野に入れ、令和3年9月にはJICA国別研修エクアドル共和国「地域における障害者に焦点を当てたインクルーシブ防災の実施能力強化」研修をオンラインで実施予定です。

図2 避難行動要支援者の避難訓練の様子
提供:同志社大学 立木茂雄 教授

③科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム

 情報技術やロボット工学、バイオテクノロジーなどに代表される新興科学技術(Emerging Technologies)は、新しい知や恩恵をもたらし、人や社会のよりよいあり方の実現を可能にする一方で、人類の歴史にとって不可逆的な影響をもたらす可能性もはらんでいます。また、SDGs達成に向けた取り組みやESG投資(環境・社会・ガバナンスの要素も考慮した投資)が急速に拡大していく中で、科学技術の研究開発や社会実装は、人間・社会との調和を目指した倫理や法制度、また関連して生起する社会的諸課題を検討しながら進めていくことが求められています。そこで、本プログラムでは、主に新興科学技術を対象として、責任ある研究・イノベーションの営みの普及・定着に資する、実践的協業モデルの創出に向けたELSIの研究開発を対象とします。科学技術の進展の先にあるべき社会像や、人間・社会にもたらす新たな価値や変化の「探索と予見」、それに伴って生じるリスクやベネフィット、インパクトの「分析と評価」、人間・社会・倫理の観点に立った研究開発の「設計とガバナンス」、そして「科学技術コミュニケーションの高度化」に取り組む研究開発を推進します。このような研究開発を通じて、科学技術やELSIの特性を踏まえた具体的な対応方策の創出、共創の仕組みや方法論の開発、トランスサイエンス問題の分析とアーカイブに基づく将来への提言等の成果創出を目指します。

 具体的な取組事例として、自動運転技術の社会実装に向けた取組を紹介します。自動運転技術は、自動運転が起こした事故の責任は開発者と乗車していた人のどちらにあるのか、といった法的問題等、ELSIへの対応なしには社会実装が困難です。本プログラムでは、客観的な証拠に基づく事故解決の法的論点や補償・保険制度など直近で求められる対処方法の確立にとどまらず、自動車という機械を人間が受け入れてきた歴史や、日本の街や社会と人の「移動」のあり方や倫理的課題まで深く分析し、技術設計や開発現場にフィードバックすることを目指す、包括的・実践的なELSI研究に挑戦しています

図3 自動運転車の実証実験の様子
提供:東京大学生産技術研究所

④科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム

 社会課題の解決に資する科学技術イノベーション政策の推進に向けて、経済・社会等の状況、社会における課題とその解決に必要な科学技術の現状・可能性等を多面的な視点から把握・分析すること、それらの客観的根拠(エビデンス)に基づいた合理的なプロセスにより政策を形成することが必要です。一方で、科学技術におけるこれまでの政策は、必ずしも十分な根拠がないなかで政策の立案・決定がなされるケースが少なからず見られています。また、開発された成果を政策形成者が活用するためのインセンティブやそれらを促進するための仕組みといった制度の設計についても、十分な取り組みがなされていません。

 こうした状況を改善するために、本プログラムでは現実の政策形成に活用しうる新たなモデル分析、データ体系化ツールや指標等の開発、幅広い分野と関連する学際的分野における関与する研究者層の拡大、その活動状況を社会へ広く発信し対話する場の構築など、客観的根拠に基づく合理的な政策形成プロセスに寄与する研究開発を推進しています。

 具体的な取組事例として、感染症対策における、数理モデルを活用した政策形成プロセスの実現を目指した研究開発プロジェクトを紹介します。日本の感染症対策は、専門医、専門家の「経験と勘」による対応が問題になっていました。そこで、感染症がどのように伝播し、感染したヒトがどの程度の期間で発病し重症化するのかを数式で記述した数理モデルを開発し、個別感染症等に適応することで、この数理モデルから得られたエビデンスを基にした流行メカニズムの解明や対応策の提言を行いました。また、新型コロナウイルス感染症に関しては、本研究成果が「新型コロナウイルス感染症対策の基本対処方針」にも取り入れられ、エビデンスに基づいた政策形成に貢献しました。

 以上のように、RISTEXでは社会課題の解決やELSI対応に貢献する公募型の研究開発を推進しています。研究者の皆様をはじめ社会で問題を抱える関与者の皆様からの積極的なご応募をお待ちしています。また、ここで紹介した取組はほんの一部に過ぎません。他にも、環境問題、少子高齢化、私的空間での事件・事故など様々な社会問題を扱いその解決策を見いだすための研究開発を推進しています。これらの研究成果はRISTEXのHP[3]等で紹介しています。ご興味があればぜひご覧ください。

 

●参考

[1]提案募集を行う研究開発プログラム一覧

[2]SDGsアクションプラン2021

[3]RISTEXの研究開発成果

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   科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)

企画運営室  田村 尚之

 

田村 尚之(たむら なおゆき)
2021年に科学技術振興機構(JST)に入構、
センターの予算要求や評価などの企画・調整業務、 ゲノム合成技術のELSIに関する取組を担当。