ユリの強い香りを抑える方法を開発:花き研究所

 (独)農業・食品産業技術総合研究機構の花き研究所(茨城・つくば市)は6月24日、開花前のユリの切り花に薬剤を吸わせるだけで香りを抑える方法を開発したと発表した。
 香りは、花きの重要な品質の一つで、香りの有無は消費者の購買意欲に大きな影響をもたらしている。オリエンタル系のユリの代表品種である「カサブランカ」は、豪華で美しい大輪の花を咲かせるが、甘く濃厚な芳香を持つため、食事など強い香りを避ける場所では敬遠されている。花の需要が伸び悩む中で、ユリの産地では花の形や大きさはそのままで、香りだけを抑える方法が求められている。
 同研究所は、オリエンタル系のユリの豪華な花の形や大きさはそのままにして、花の香りを抑えることができる「香り抑制剤」を開発した。
 花の香りは、香りの素となる物質からいくつもの段階を経て作られており、それらの段階の一つ一つに酵素が関わっている。その酵素の働きを抑える薬剤(阻害剤)を花に与えると、香りの成分が生成されないので、花の香りを抑えることができる。
 ユリの香り成分の大部分は、芳香化合物(主にベンゼン核を有する化合物群)とテルぺノイドという化合物で構成されている。花の香りに関わる酵素の働きを阻害する薬剤の中から、芳香族化合物の生成を抑えるフェニルアラニン・アンモニア・リアーゼ阻害剤の効果を検討したところ、テルぺノイドの生成も抑えることが分かった。
 今回の研究で、ユリの切り花(つぼみ)を0.1ミリモル(水1ℓ当たり10mg溶かした濃度)のフェニルアラニン・アンモニア・リアーゼ阻害剤の水溶液に生けるだけで、香りの抑制効果が得られることが明らかになった。1日後に開いた花からは、香りがほとんど感じられず、香り成分量は水に生けた花の8分の1程度となった。花が開いてしまうと香りの生成が始まり、香り抑制効果が低くなるので、つぼみのうちに処理するのがポイント。処理時間が長いほど香り抑制効果は確実となる。
 ユリは、切り花の中ではキク、バラに次いで産出額の高い品目だが、香りが強いため結婚式場やレストランなど食事を伴う場での使用が控えられてきた。ユリの香りを抑えることにより、今後はこうした華やかな場所での需要の拡大が期待される。

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オリエンタル系のユリの代表品種「カサブランカ」(提供:花き研究所)