筑波大学と横浜市立大学は5月21日、インフルエンザウイルスの複製(増殖)に中心的な役割を果たしている酵素「RNAポリメラーゼ」のサブユニット(構成単位) 間の構造を原子レベルで解明したと発表した。
RNAポリメラーゼは、RNA(リボ核酸)を合成する酵素のこと。今回の研究は、2008年に同共同研究グループにより解明されたRNAポリメラーゼの構造の研究と合わせ、新しい抗ウイルス剤の開発に向けた画期的な成果といえる。
これまでに開発されたインフルエンザウイルスの薬は、ウイルスが細胞に感染することを防ぐもので、直接その複製を阻害するものではなかった。
筑波大と横浜市立大の共同研究グループは、RNAポリメラーゼが、「PA」、「PB1」、「PB2」と呼ばれる3つのサブユニットを持っており、これら3つが揃ってポリメラーゼとしての機能を示すことに注目し、その結合を阻害することによってウイルスの増殖を防ぐことができると考えた。
共同研究グループは、RNAポリメラーゼのPB1とPB2サブユニット間の結合構造を調べるために、複合体の結晶を作製してX線結晶構造解析を行った。その結果、PB2-PB1複合体の原子レベルの構造を解明することに成功した。さらにPB2-PB1複合体の構造から、結合に重要な役割を果たしているアミノ酸を見つけ、そのアミノ酸に変異が起きるとポリメラーゼの活性が著しく低下することを確認した。
共同研究グループは、2008年にもう一つのサブユニット結合部位であるPA-PB1の結合部位の構造を英国の科学誌「ネイチャー」に発表している。
今回と前回の二つの構造解析により、インフルエンザRNAポリメラーゼのサブユニット間の立体構造を明らかにしたことは、ウイルス複製に必要な部位を創薬のターゲットにすることを可能にし、抗インフルエンザウイルス創薬の新たな分野を開く成果となった。この研究を基にして今後開発される新規抗ウイルス剤は、ウイルスの異変に強く、これまでのワクチンとは違って、どんなタイプの新型インフルエンザウイルスにも効果が出る画期的なものになると期待されている。
この研究成果は、5月21日に欧州分子生物学機関誌の「EMBO Journal」のオンライン版に掲載された。
No.2009-20
2009年5月18日~2009年5月24日