電極材料内のリチウムイオンの出入りを可視化
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は8月18日、電気自動車やハイブリッド車などに利用が期待されているリチウムイオン電池の性能を支配する正極(陽極)材料内のリチウムイオンの出入りの様子を可視化することに成功したと発表した。構成元素の濃度分布を可視化出来る特殊な電子顕微鏡技術と独自開発の信号強度解析法によって、リチウムイオンの濃度分布の可視化を実現した。
 リチウムイオン電池は、蓄電池(二次電池)の一つで、電解質を介してリチウムイオンが充電時に正極から負極(陰極)へ、放電時には負極から正極へ移動する。どれほどリチウムイオンが取り出せるかで電池容量が決まるなど、リチウムイオン電池で正極材料は重要な要素となっているが、正極材料のリチウムコバルト酸化物には資源上の問題があり、新しい正極材料の開発が進んでいる。こうした正極材料のさらなる高性能化のためには、nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)オーダーの微細構造でのリチウムイオンの出入りの様子を観察することが非常に重要になる。しかし、リチウムのような軽い元素を電子顕微鏡で観察することは原理的に難しいことから、リチウムイオンの挙動を可視化できる電子顕微鏡観察技術の開発が求められていた。
 コバルトより安くて豊富なマンガンや鉄などを用いた正極材料の開発に取り組んでいる産総研では今回、鉄含有リチウムマンガン酸化物を可視化実験の対象に、充電・放電の各過程で正極でのリチウムイオンの脱離と挿入の観測に成功した。マンガンや鉄など遷移金属元素と呼ばれる元素の濃度分布図とリチウム元素濃度分布図の両方を観測出来るようになり、各過程でのリチウムイオンの挙動が明らかになった。
 産総研では、この手法を用いて高性能正極材料を開発すると共に、さらに観測手法の改良を重ね、様々な新規材料への適用を進める。

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