(独)日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構の共同運営組織であるJ-PARC(ジェイ・パーク)センターは5月15日、水銀の気泡の生成崩壊過程の可視化に世界で初めて成功し、水銀を入れる容器(水銀ターゲット容器)の耐損傷性を高める新表面処理技術を開発したと発表した。この新表面処理技術は、自動車、産業機械、船舶、原子力機器など広い分野への応用が期待される。
J-PARCセンターは、現在茨城県東海村に大強度陽子加速器施設「J-PARC」の建設を進めている。この施設では、中性子源に水銀(液体)を使用し、従来の6倍以上の強度を持つ中性子ビームを発生させて色々な中性子利用の実験を行うことを予定している。
液状の水銀に光速に近い速度の陽子を衝突させると、圧力波が水銀内に生ずる。この圧力波の衝撃が水銀ターゲット容器の内側表面に負荷を生じさせるとともに、水銀気泡の生成と崩壊による急激な圧力変動によって、容器の破損が懸念されている。この現象の解明と対策が、世界的に高出力の中性子源の技術開発を進める上での大きな課題となっている。
今回、超高速度カメラにより、圧力波で成長し崩壊する水銀気泡の超高速連続映像化に世界で初めて成功した。この映像により圧力波を受けた水銀の内部で、水銀蒸気の微小気泡が急速に成長した後、瞬時(数十マイクロ秒)に崩壊し、その過程で水銀ジェットの噴射が生じるため、容器の損傷の要因となることが解明された。
また、この研究による数値計算を基に、各種プラズマ状にした窒素と炭素による処理技術を融合し、損傷の耐性を向上させる新しい表面処理技術の開発に成功した。これによりJ-PARCに設置される高出力中性子源水銀ターゲット容器の開発に目途がついた。