(国)産業技術総合研究所は3月8日、がんの光熱療法への応用が期待されるナノコイル状の新素材を開発したと発表した。この素材をがん細胞に添加し近赤外レーザー光をあてると、素材が発熱してがん細胞を殺す。生体深部のがん治療への利用が期待できるという。
■実験ではがん細胞死滅65%
熱に弱いがん細胞を加熱して殺す温熱療法は第4のがん治療法として注目されているが、光熱療法はその一種。波長700~1,500nm(ナノメートル、 1nmは10億分の1m)の近赤外光は生体深部まで届くことから、近赤外光を吸収して発熱する材料をがん細胞に添加しておいて体外から光を当てると、がん細胞を効果的に殺せる
光の吸収率が大きく生体に安全な材料の開発がこれまでいろいろ試みられているが、産総研は今回、中空シリンダー構造を持つナノサイズの有機分子製チューブ、いわゆる有機ナノチューブの表面に、ドーパミンの重合体であるポリドーパミン(PDA)がコイル状に結合した素材を開発した。
体内分泌物質であるドーパミンが自発的に重合してできるPDAは、生体適合性の大きい安全な材料の一つだが、近赤外光を吸収して発熱する光発熱効果はあまり大きくないという弱点がある。研究チームはPDAの形状をコイル状にすると光発熱効果を改善できるのではないかと考え、PDAが吸着しやすい有機ナノチューブを選んでこれを鋳型とし、ナノコイル状のPDAを作製した。
その結果、光発熱効果の性能実験では、ナノ粒子状のPDAなどに比べ、2倍以上の温度上昇が認められた。また、培養したヒト子宮頚部ガン細胞にナノコイル状PDAを添加し近赤外レーザーを照射した実験では、約65%の細胞の死滅が認められた。
ナノコイル状PDAが細胞表面に多数吸着し、細胞の近くが高温になることでがん細胞が死滅したと考えられるという。
今後、光発熱効果の向上、各種がん細胞に吸着させるための工夫、正常細胞に対する安全性の確認などを進め、実用化につなげたいとしている。

ナノコイル状PDAの発熱作用と培養がん細胞に対する死滅効果(提供:(国)産業技術総合研究所)