
今回開発した1020MHz-NMR装置のうちの超電導磁石の部分。高さ5m、重さ約15tでこの中に高温超電導体で作られたコイルが入っている(提供:(国)物質・材料研究機構)
(国)物質・材料研究機構の研究チームは7月1日、世界最高強度の磁場を使った核磁気共鳴(NMR)装置を開発したと発表した。高温超電導線材を用いた磁石を初めて採用して1020MHz(メガヘルツ)という強い磁場を実現、NMR分析の高感度化や高分解能化といった性能向上につなげた。従来の装置に比べて感度・分解能ともに著しく向上していることを確認したという。タンパク質の立体構造解析などが必要な新薬創生や新材料開発などのほか、この開発で培われた技術は、核磁気共鳴画像法(MRI)や核融合、リニアモーターカーなどへの応用も可能で、広く役立つと期待される。
■新薬創製や新材料開発など多様な応用に期待
一定条件下の磁場の中に物質を置いたとき、物質内部の原子核と磁場の相互作用で原子核から電磁波が放出される。NMR装置はこの核磁気共鳴現象を利用して物質内部の原子核の種類や状態を調べる分析装置。物材機構は今回、(国)理化学研究所、(株)神戸製鋼所、日本電子(株)グループのジオル・レゾナンスと共同でNMR装置の性能向上に取り組んだ。
研究チームが開発したNMR装置は、高さ5m、重さ約15t。中に全長約3kmの高温超電導線材を直径10cm、長さ約1mの円筒状に巻いたコイルが入っている。このコイルを液体ヘリウムでマイナス273℃の極低温に冷やし、電気を流すことで強い磁場を発生させた。
実験では、24テスラという高強度の磁場ができることを確認。また、高強度の磁場のときほど高くなる水素原子核が放出する電磁波の周波数は1020MHz(メガヘルツ、メガは100万)だった。従来、金属系の超電導線材を用いていたが、今回初めてより高い温度で使える高温超電導線材を採用、限界とされていた1000MHzを上回った。
使用した高温超電導線材はビスマス系超電導体。高温超電導線材を使えば磁場の強度限界を超えられと考えられていたが、高温超電導体は材料がセラミックのために割れやすい、加工しにくいなど問題があり、NMR装置に使うのは難しかった。研究チームは高温超伝導線材をコイル状に巻く特殊な巻線技術や磁場安定化装置などを開発、初めてNMR装置へ応用できるようにした。
高強度磁場のNMRの開発を巡っては日米欧の間で競争が繰り広げられている。次世代NMRとして1200MHz級の実現が世界的に目標になっているが、研究チームは開発競争で優位に立てるよう今回の成果を生かして次世代NMRを実現するための次期計画を立案中だ。