細菌がウイルス侵入を排除する防御機構を解明
―「Cmr複合体」に着目、立体構造を解析
:産業技術総合研究所(2015年4月23日発表)

 国立研究開発法人産業技術総合研究所は4月23日、細菌がより小さなウイルスの侵入から身を守る防御機構を解明したと発表した。これまでに知られていた機構の中で特に重要な役割を果たす複合体の立体構造を解明、複合体が侵入してきたウイルスのRNA(リボ核酸)遺伝子を識別して分解する仕組みを明らかにした。この成果を利用すれば、遺伝子の働きを自由に制御する新技術の開発につながると期待される。

 

■遺伝子の発現調節技術に道

 

 細菌はいったんウイルスが感染すると、同じウイルスには感染しにくくなるという独自の免疫機構「CRISPR-Cas」システムを持っている。特に重要な役割を果たすのが最初の感染時に菌体内につくられる「Casタンパク質」と「crRNA」というRNA遺伝子の複合体で、それがウイルスのRNAを識別して分解する仕組みは未解明だった。

 産総研は今回、複合体の一つである「Cmr複合体」に着目、高エネルギー加速器研究機構(KEK)のフォトンファクトリーを利用してその立体構造解析を試みた。これまでは複合体にウイルスのRNAが結合するとすぐに分解してしまうため、結合した状態で立体構造を調べることはできなかった。

 そこで今回の実験では、ウイルスのRNAと同じ塩基配列を持つDNAに着目、複合体に結合させて分解されない状態で立体構造を調べた。その結果、複合体を構成する6種類のCasタンパク質(Cmr1~Cmr6)がより合わさって複合体表面にらせん状の溝が見つかった。さらに、その溝に沿って特定のウイルスRNAとだけ対になって結合する塩基配列のRNAがあり、この溝側RNAがウイルスRNAと2本鎖を形成することでウイルスを識別していることが分かった。

 ただ、対になった塩基配列は通常とは異なり二重らせん構造にならず、複合体を構成するタンパク質の一部が部分的に2本鎖の間に割り込む形となっていた。この結果、溝側のRNAが対となるウイルスRNAに結合する際に、ウイルスRNAの構造が大きく歪んで不安定化し、ウイルスの増殖が抑えられることが分かった。

 今回解明した仕組みを利用すれば、特定の塩基配列の部位でRNAを切断する複合体を作ることができ、遺伝子の働きを人為的に操作する新技術の開発に道が拓ける。

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標的核酸を捕捉したCRISPR-Cas Cmr複合体の構造(左)と複合体中におけるcrRNAと標的核酸の形(右)(提供:国立研究開発法人産業技術総合研究所)