(独)産業技術総合研究所は9月25日、炭化ケイ素(SiC)半導体を用い、従来のシリコン(Si)半導体では不可能とされていた16kVという高電圧に耐えるパワー半導体トランジスタを開発したと発表した。高電圧領域での半導体化が進み、電力の有効利用や省エネルギー化、機器の小型化などが期待できるという。
■IGBT構造をSiC半導体で実現
電力の変換(直流・交流変換、電圧変換)や制御を担うパワーエレクトロニクスはこれまでシリコン(Si)半導体により性能向上が図られてきたが、理論的に限界が見えてきたため、次世代材料としてSiC半導体が注目されている。
SiC半導体は、絶縁破壊を起こす電界強度や電子走行速度、熱伝導性がSi半導体に比べて大幅に優れ、パワーデバイスの高耐電圧化、高速化、熱損失の低減が図れる。
ただ、その実現に必要なp型SiC基板は、これまでn型基板に比べて結晶欠陥密度が高く、デバイスの作製は難しかった。
研究チームは今回、フリップ(上下反転)型という基板製法と、SiC基板のカーボン面を利用する、ゲート形成にイオン注入とエピタキシャル薄膜成長を組み合わせた独自のIE構造を用いることにより、現在のSiパワーデバイスの主流である絶縁ゲートバイポーラ・トランジスタ(IGBT)構造をSiC半導体で実現、超高耐電圧特性を持つトランジスタの開発に成功した。
試作したのは3mm角のSiC-IGBTチップで、耐電圧16kV、オン抵抗11.3mΩcm2と、世界最高レベルの超高耐電圧パワーデバイス特性を確認できたという。今後、大面積化や大電流化、スイッチング電力損失の低減などを進め、技術を確立したいとしている。

従来型IGBTとフィリップ型IGBTの構造の違い(提供:産業技術総合研究所)