高効率でダイヤモンドを合成する新技術
―高純度、原料ガス利用効率10~100倍
:物質・材料研究機構

 (独)物質・材料研究機構は5月7日、高電圧や放射線など極限環境に強い半導体材料の高純度ダイヤモンド結晶を効率よく作る技術を開発したと発表した。原料のメタンガスを分解・化学反応させてダイヤモンド結晶を作る化学気相合成(CVD)法で、原料ガスの利用効率を10~100倍に高めることに成功した。炭素の特定の同位体の比率を高めたダイヤモンド結晶の合成にも成功、近未来技術として注目される量子情報通信向けなどの電子素子開発が加速すると期待される。

 

■電子素子開発に加速期待

 

 CVD法では通常、原料のメタンガスが最適濃度になるようにキャリアガスと呼ぶ他の気体とともに反応容器内に送り込み、加熱した基板上で分解・化学反応させて炭素原子が規則的に並んだダイヤモンド結晶にする。新技術では、このCVD法で反応容器内にメタンガスを送り込む手順を大きく変えた。
 従来はダイヤモンド合成に使われる容器内のメタンガス濃度を一定に保つために多量の原料ガスを反応容器に送り込みながら同時に排気していた。新技術では容器内のガス濃度を監視しながら最適濃度の維持に必要な量のキャリアガスとメタンガスを送り込み、最適な合成条件になったらところで、ガスの供給速度と原料ガスの濃度を変える仕組みにした。ガス供給速度と排出ガス速度は、従来法の1,000分の1以下とした。
 この結果、これまでキャリアガスと一緒に大部分が排気されていたメタンガスの利用効率が大きく向上。従来法がメタンガスの0.1~1%程度しか結晶化に使われなかったのに対し、10%以上が結晶化するようになった。多結晶ダイヤモンドを合成する実験では、80%という高い利用効率も実現した。
 原料ガスの利用効率が上がったことで、炭素の同位体である炭素12の割合を濃縮した高価なメタンガスも使えるようになり、自然界では98.93%しか含まれていない炭素12を99.998%にまで高めたダイヤモンド単結晶化することに成功した。この技術によって得られた固体原料を用いた高圧高温合成法でも高純度の結晶が得られた。炭素12を多く含むダイヤモンド単結晶はユニークな特性を持つ電子材料として注目されているが、いかに原料ガスの利用効率を高めて安価に作れるかが実用化のカギとされていた。

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新合成技術で得られた同位体濃縮ダイヤモンド結晶。(a)は CVD多結晶ダイヤモンド:直径30mmのモリブデン円板の全面に厚み0.5mmで合成。(b)は高圧高温合成法による単結晶ダイヤモンド。(c)は CVD単結晶ダイヤモンド:窒素を含有する(黄色)汎用の単結晶基板上に高純度・高同位体比単結晶を合成し、その後CVD単結晶と基板を分離した(提供:物質・材料研究機構)