(独)産業技術総合研究所と次世代化学材料評価技術研究組合は8月15日、動作中の有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)素子内部の特定の分子の振る舞いを選択的に計測する手法を世界に先駆けて開発したと発表した。材料の劣化の状態を素子破壊することなく調べることができるため、長寿命の素子開発の有力な手立てになるという。 有機EL素子は、次世代のディスプレーや照明用として期待されている有機化合物製の発光デバイス。発光層を真ん中に、その左右に電子注入層、電子輸送層、正孔注入層、正孔輸送層などといった有機層を積層した多層素子の開発が進んでいる。大気中の酸素や水分が大きな劣化原因となることから、これらの有機層は、乾燥剤とともに厳重に密封されている。このため、出来上がった素子の継時変化を分子レベルで追跡することは、これまでできず、実用化のカギとされる長寿命化に向け、素子の劣化の進行などを駆動中に非破壊で評価・計測する技術が求められていた。 研究チームは、レーザー分光法の一つである「和周波発生分光法(SFG分光法)」に改良を加え、有機EL素子内にある特定の有機層界面の分子の振動スペクトルを計測可能にした。 和周波発生分光法は、可視と赤外の2つのレーザー光を試料に同時に照射し、出てくる和の周波数の光を検出する方法で、和の周波数を持った光は、物質の内部ではほとんど発生せず、表面や界面からだけ出てくる性質があるため、物質の表面や界面の分子の振る舞いだけを選択的に調べることができる。 照射するレーザーの波長を赤外だけでなく可視光も変えられるようにした2色可変和周波発生分光法の技術を今回開発、適用したことで、目的とした有機層からの信号だけを増強してとらえることが可能になったという。この手法を用いると、動作中の有機EL内部の分子自身の変性や分解、さらに素子内部の電界変化の様子を明らかにでき、有機EL素子の特性の向上や、未解明であった劣化の問題に関する有用な情報の取得が期待できるとしている。
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多層有機EL素子の構成概略図とSFG分光法の光入出射方向(提供:産業技術総合研究所) |
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