(独)産業技術総合研究所は1月17日、新たな透明電極材として期待されている「グラフェン」の製造に適したパルスレーザー波形を突き止めたと発表した。パルス幅2フェムト(フェムトは1,000兆分の1)秒程度のレーザー照射が、効率よく酸化グラフェンを還元してグラフェンを作製するのに適しているという。印刷塗布方式によるグラフェン電極製造技術への貢献が期待できるとしている。 グラフェンは、黒鉛(グラファイト)のシート状物質。炭素原子が蜂の巣状に6角形のネットワークを組んでいる。透明性が高く電気伝導度が大きいことから太陽電池やタッチパネルの透明電極としての応用が期待されており、電極の製法として近年、グラファイトを酸化して酸化グラフェンに変えた後、溶液中で剥離し、それを回路パターンに印刷塗布してから還元するという方法が注目されている。しかし、還元には、ヒドラジンなどの毒性の強い化学物質を用いるか、1,000℃の高温で処理する必要があり、実用化の障害になっている。 研究チームは、パルスレーザーを用いて酸化グラフェンを還元する製法に着目し、今回、計算科学の手法で酸化グラフェンの還元に適したパルス波形を探った。具体的には、「時間依存第一原理計算」という計算手法を使い、パルスレーザー照射後の酸化グラフェンの構造変化を様々なパルス波形についてシミュレーションした。 その結果、パルス幅のごく狭い2フェムト秒程度のパルス波形のレーザー照射がグラフェン作製に適していることを見出した。パルス幅の広いフェムト秒レーザーによる還元よりも、還元反応に伴う発熱を抑制できるため、グラフェンに欠陥が発生するリスクが少ないという。 研究チームは今後、必要最小限度のレーザー強度の予測精度を高めたり、酸化以外の原因による不純物の除去方法を研究するなどして、グラフェン生成と精製の最適プロセスを見出したいとしている。
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酸化グラフェン(上)とグラフェン(下)の原子構造(提供:産業技術総合研究所) |
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