(独)産業技術総合研究所は12月15日、電子顕微鏡を用いて一つ一つの炭素原子を識別しながらそれらの電子状態を個別に観察することに世界で初めて成功したと発表した。炭素原子が六角形の網目状につながったシート状の「グラフェン」を対象にした実験で、シートの端にある原子と内側の原子では電子状態が大きく異なることを確認した。 ナノ材料などの性質は、端や表面にある原子の状態によって大きく左右されるが、これまでは調べる方法がなく、新材料開発の壁になっていた。新手法は、炭素以外にも利用でき、新しい電子素子や触媒、医薬の開発などに幅広く応用できると同研究所は期待している。 研究を担当したのは、末永和知・上席研究員らの研究グループ。新手法では、電子顕微鏡の電子線を試料に照射した時、電子線のエネルギーがどのように失われるかを分析する電子線エネルギー損失分光法を利用した。従来、この手法は、バルク(集団)状の炭素原子にしか適用できなかったが、新たに世界最高感度の電子顕微鏡を開発するなどの工夫によって分光感度を10倍に高め、炭素原子一個の分光分析に成功した。この結果、グラフェンの端にある炭素原子の電子状態は中の原子とは異なるほか、その状態が7、8個内側に離れた原子にまで影響していることなどが分かった。 タンパク質を利用した医薬品開発などでは、有機分子のどの原子がもっとも反応しやすいかを調べる必要があるが、これまでは一般にノーベル化学賞受賞者の福井謙一博士らが確立したフロンティア分子軌道理論を用いた計算によって予測している。ただ、タンパク質のような巨大分子系では、理論計算が難しく、直接的な観察手法の開発が期待されていた。 詳しくはこちら |  |
電子顕微鏡で撮影したグラフェンの端の部分の構造。白く見えるのが炭素原子で、通常は六角形の網目構造を形成している(緑色の矢印)が、端では網目構造が壊れている(青色、赤色の矢印)(提供:産業技術総合研究所) |
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