常温下で全固体薄膜リチウムイオン蓄電池を作ることに成功
:産業技術総合研究所/トヨタ自動車

 (独)産業技術総合研究所は11月5日、トヨタ自動車(株)と共同で、常温の成膜技術を用いて酸化物系の固体電解質、同じく酸化物系の固体正極材料、同負極材料を金属基板上に積層し、3層構造の全固体薄膜リチウムイオン蓄電池を試作、蓄電池としての充放電特性を確認したと発表した。今回の成果により、高エネルギー密度の固体リチウムイオン蓄電池を低コストで作れる可能性が開けたとしている。
 ハイブリッド車や電気自動車などの高性能化は、小型で軽く、十分な電気エネルギーが取り出せる、いわゆる高エネルギー密度の蓄電池の開発が鍵を握っている。全固体型リチウムイオン蓄電池は、その有力候補の一つ。産総研とトヨタ自動車は、高性能な次世代蓄電池の開発を目指し、「エアロゾルデポジション(AD)法」という技術を手がかりに、共同でこの研究開発に取り組んでいた。
 AD法は、微粒子をガスに混ぜてジェット噴射し、基板に勢いよく衝突させて膜を形成する手法。産総研は、セラミックスなどの微粒子を常温で高速固化し成膜する常温プロセス技術を保有しており、今回、酸化物系材料の成膜条件や原料粒子をAD法に適合するように調整し、正極、負極、電解質のそれぞれを固体薄膜として積層、全固体の薄膜型蓄電池を作り出した。
 リチウムイオン蓄電池は、リチウムイオンを通すが、電子は通さない電解質を介して正負両極間で充放電する仕組み。現在のリチウムイオン蓄電池は、電解質に液体を用いている。固体電解質は、液体電解質と比べて多くのメリットを持つ半面、イオン伝導度がかなり低いため電解質層をできるだけ薄く作ったり、イオン伝導度のより高い材料を見つけ出したりする必要がある。これまでに幾通りかの方法で電解質の固体化が試みられているが、いずれも条件を満たすような成果は得られていない。
 今回AD法を用いることで、高密度・高強度の薄膜状の電解質を高温加熱することなく常温で形成することに成功した。全固体リチウムイオン蓄電池の充放電特性を確認できたのはこれが世界で初めてという。
 AD法は、他の成膜法に比べ成膜時間も短いことから、生産性向上やプロセスコストの低減が期待できる。産総研とトヨタの共同研究チームは、今後AD法を用いて本格的な全固体蓄電池の開発に取り組む計画だ。

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試作した全固体薄膜リチウムイオン蓄電池(提供:産業技術総合研究所)