単結晶回折装置使いタンパク質結晶の構造解析に成功
:茨城県/茨城大学/日本原子力研究開発機構

 茨城県と茨城大学、(独)日本原子力研究開発機構は10月13日、同県が保有する「茨城県生命生物構造解析装置(iBIX)」を使って、タンパク質結晶の構造解析に成功したと発表した。
 茨城県は、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構が共同で茨城県東海村に設置・運営している大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設に、単結晶中性子回折装置「iBIX」を設置し、タンパク質の結晶などの中性子構造解析を行うことにより、創薬を中心とした産業分野での利用拡大を目指している。
 iBIXは、J-PARCの強力なパルス中性子源に対応して、最大限の成果が得られるよう、新たに開発された世界初の単結晶回折装置で、専用のデータ解析ソフトウエア「STAR Gazer」を装備している。
 これまでタンパク質などの結晶の中性子構造解析を行う際の最大の問題点は、大きな単結晶の育成が難しいということであった。このため、iBIXでは目標性能として、比較的育成が容易な体積1mm3程度の単結晶でも1週間以内で解析に必要な回折データを取得できることを目指している。また、結晶育成に合わせて、大型タンパク質結晶の冷却技術や低温での測定技術の確立も必要となる。
 今回、茨城大学が、タンパク質の標準的試料(リボヌクレアーゼA)の結晶の中性子構造解析によりiBIXの性能評価を行った。その結果、体積1mm3の単結晶を1週間以内に構造解析するという目標性能を達成できる見込みとなった。
 また、日本原子力研究開発機構が、最先端の研究対象である不凍タンパク質の中性子結晶構造解析を行い、iBIXが液体窒素温度に近い低温で構造解析ができる装置であることも明らかにした。不凍タンパク質は、寒冷地に生息する魚類や昆虫、植物に含まれるタンパク質で、体内の氷の成長を抑制する働きがある。氷の結晶成長を抑制できるタンパク質として、主に冷凍分野における工業的応用が期待されている。
 今後、iBIX搭載の検出器を30台に増設し、J-PARCのビーム強度が1MW(メガワット、1MWは100万W) に到達すれば、確実に目標性能を達成できることが明らかになった。さらに、データ解析ソフトの性能の向上により、1mm3以下の結晶も解析可能になる見通しとなった。

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