(独)物質・材料研究機構は10月14日、棒の一端が固定され、他端が自由に動くカンチレバーと、両端が固定され、中間部が振動するブリッジを、nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)サイズの単結晶ダイヤモンドで作ることに成功、その技術を用いて単結晶ダイヤモンドのナノマシンスイッチを世界で初めて開発したと発表した。 ダイヤモンドのナノマシンスイッチは、硬度、耐摩耗性、耐熱性などの機械的特性に優れる上、ヤング率が大きく、高速のスイッチ動作が可能。また、半導体や金属でできた従来のナノスケールのスイッチに比べ、信頼性、寿命、速度、出力などの機能を大幅に向上できるほか、リーク電流が少なく、消費電力や伝送損失が少ないので機器の省エネ化につながるなどの特徴がある。 このため、携帯電話などに代表される次世代高周波無線通信や、真空、高温、放射線などの過酷な環境に耐える高機能・高信頼性デバイスを作製できると見られており、今回のダイヤモンドデバイスの開発はその道を開く成果として今後の展開が期待できるという。 様々な優れた特性を持つダイヤモンドは、ナノマシンデバイスをはじめとしたナノテクノロジーの有力材料だが、カンチレバーのように動く可動構造体を単結晶ダイヤモンドで作製することは難しく、スイッチングデバイスの開発はこれまで試みられていなかった。 同機構の研究チームは、まず、単結晶ダイヤモンド基板に炭素の高エネルギーイオンを注入して、ダイヤモンドの一部をグラファイト(黒鉛)に相変態させた。次にマイクロ波プラズマ気相成長法によってボロン(ホウ素)原子を注入した導電性のダイヤモンド薄膜を成長させた。そのあと、グラファイトの部分をエッチング除去し、カンチレバーとブリッジの可動構造体を作製した。さらに、その技術を発展させ、ソース、ドレイン、ゲートからなる3端子トランジスタ状構造のナノマシンスイッチを作り上げた。 このスイッチは、ソース-ドレイン間に一定値以上の電圧を印加すると、ゲート-カンチレバーにエアギャップを介して静電気引力が働き、カンチレバーの一端がドレインに接触することによって電流のオン・オフ操作ができるというのが動作原理。 開発したダイヤモンド・ナノマシンスイッチは、リーク電流が小さく、消費電力は10ピコワット(ピコは1兆分の1)以下。250ºCの高温下でも安定に動作することを確認した。カンチレバーのヤング率は、1,100ギガパスカル(ギガは10億)と大きく、ギガヘルツの高速スイッチ操作が期待できるという。 研究チームは、ナノテクへのダイヤモンド応用の基盤技術が確立できたとしており、化学的・物理的・機械的センサーとしての応用の展開も視野に入れている。 詳しくはこちら |  |
単結晶ダイヤモンドで作ったカンチレバーの走査型電子顕微鏡写真。1µm(マイクロメートル)は、100万分の1m(提供:物質・材料研究機構) |
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