植物の遺伝子の働き抑えることに初めて成功し、仕組みを解明
:農業生物資源研究所

 (独)農業生物資源研究所は9月21日、試験管内で短鎖RNA(約20の塩基で構成される短いRNA(リボ核酸)分子)によって植物の遺伝子の働きを抑えること(RNAサイレンシング)に世界で初めて成功し、その仕組みを解明したと発表した。
 RNAサイレンシングは、遺伝子の働きを抑える動植物に共通してみられる仕組みで、体を形作る過程やウイルスの制御など、重要な生命現象に深く関わっている。RNAサイレンシングでは、短鎖RNAとタンパク質の複合体がタンパク質合成に関わる標的のRNAを切断することにより、遺伝子の働きを妨げる。
 生物が自分にとって有害なウイルスなどのRNAを切断する仕組みを備えていることは、1990年代に明らかになった。その後の研究で、短鎖RNAが合成される仕組みや、短鎖RNAは「AGO」と呼ばれるタンパク質と複合体を形成しないと機能を発揮できないことが解明されたが、RNAサイレンシングの機能を持つ短鎖RNA-AGO複合体が、どのようにしてできるのかは分かっていなかった。
 今回、同研究所の研究グループは、試験管内でタバコのAGOの一種であるAGO1タンパク質を合成し、人工的に合成した2本鎖の短鎖RNAを添加する実験などを行った。
 その結果、RNAサイレンシングを引き起こすRNA複合体の形成手順は、[1]AGO1はATP(アデノシン3リン酸)と結合した「HSP90」というタンパク質と複合体を形成する。[2]HSP90と結合したAGO1に2本鎖の短鎖RNAが結合する。[3]HSP90に結合したATPが加水分解され、AGO1と2本鎖の短鎖RNAからなる複合体がHSP90から離れる。[4]これに伴い短鎖RNAの一方の鎖が切断されてAGO1から除去されると共に、もう一方の鎖はAGO1に保持される。[5]短鎖RNA-AGO1複合体が完成し、標的RNAを認識することが可能になる、という流れであることが示された。
 今回の成果は、この複合体がどのようにして形成されるかを初めて明らかにしたもので、今後ウイルスによる病害などを、RNAサイレンシングを用いて制御する手法の開発につながるものと期待される。
 この研究成果は、7月30日に米国の分子生理学専門誌「Molecular Cell」に掲載された。

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