湛水下のダイズの根への酸素供給機能を解明
:作物研究所

 (独)農業・食品産業技術総合研究機構の作物研究所は7月21日、水が貯まった湛水(たんすい)下のダイズの根への酸素供給機能を解明したと発表した。
 我が国では、ダイズの約85%が水田を転換した畑で栽培されている。ダイズは、湛水に弱い畑作物で、生育初期が梅雨の時期と重なるため、湿害を受けることが少なくない。湿害とは、土壌水分が過剰になり、土壌中の空気が減少して根の呼吸に必要な酸素が不足することをいう。
 一方、湿害を受けないイネでは、茎や根に酸素を供給する通気組織が形成されることが知られている。通気組織とは、地上部から根に酸素を供給する役割を持つ連続した空隙のことをいう。耐湿性の強いマメ科植物では、湛水下で茎や根に白色スポンジ状の肥大組織が発達し、これがイネの通気組織のような機能を持っている。
 これまでダイズにも、湛水条件下では茎や根に白色スポンジ状の肥大組織が発達することは分かっていたが、その役割について詳細な調査は行われていなかった。
 今回の研究では、ダイズのスポンジ状の肥大組織に通気組織の役割があるのか、また、植物体内の酸素供給に有効に働いているのかを調べた。
 実験では、水面の上昇で茎の肥大組織が水没すると、茎の酸素濃度は徐々に低下し、水没から2時間後には水没前の約40%まで減少した。しかし、肥大組織が再び水面に戻ると、大気中の酸素が取り込まれて茎の酸素濃度は瞬時に上昇し、10分後には元通りに回復した。
 また、通気組織が発達していない茎では、地下部へ酸素を輸送する能力が低く、茎や根に通気組織が発達することで、積極的に大気中の酸素が地下部へ供給されることが分かった。
 さらに、通気組織を通して根や根粒に供給された酸素が呼吸に使用されていることが、酸素の同位体「重酸素」を目印として酸素の行方を追跡する実験で明らかになった。
 これらの実験から、湛水時にダイズの茎に形成される肥大組織には、地下部へ酸素を供給するシュノーケル(通気装置)のような役割があり、通気組織としての機能を持っていることが明らかになった。また、通気組織の発達で、根は湛水土壌の低酸素環境でも酸素呼吸ができるようになり、機能の回復に有効であることが分かった。
 この研究成果は、7月21日に英国の植物学専門誌「Annals of Botany」の電子版に掲載された。

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