(独)産業技術総合研究所は3月17日、分子の特性を変える分子デザイン技術を使って、抗体の精製に用いるタンパク質を改変し、その安定性と親和性を向上させることに成功したと発表した。
抗体とは、免疫反応の中心となるタンパク質のことで、生体内に侵入した抗原(異物)に特異的に結合することによりその除去に役立っている。抗体医薬は、薬効が高く副作用が少ないことから利用が拡大しているが、価格が高く、その低価格化が課題となっている。
抗体医薬の製造工程の内、最もコストがかかるのは抗体医薬の純度を上げるための分離精製の工程で、「プロテインA」と呼ばれる微生物由来のタンパク質を使用して物質の分離を行っている。しかし、プロテインAは、優れた特性を持つが、一方でその使用が精製コスト上昇の主な原因であることから、代替できる分子の開発が望まれていた。
同研究所は、これまでタンパク質の特性を、目的に合わせて改変する分子デザイン技術の開発を進めてきた。今回、独自に開発した分子デザインプログラムを活用し、バイオテクノロジー(遺伝子工学)の様々な分野で抗体の精製・検出などに広く利用されている「プロテインG」を改変して、耐熱性、化学薬品耐性、酵素分解耐性などに優れた改変タンパク質の開発を行った。
プロテインGは、各種の抗体の定常領域(アミノ酸配列に比較的変化の少ない領域)に親和性(他の物質と容易に結合する性質)を持っており、これまでも実験室レベルでの抗体精製に用いられてきた。
改変タンパク質の開発は、2つの段階に分けて行われた。先ず、プロテインGの分子構造を安定化できるように、タンパク質を構成するアミノ酸の配列を設計した。次いで、良好な安定性が得られた改変プロテインGに対して、親和性の向上など分子機能の改善ができるようにアミノ酸配列を再設計した。
今回開発した改変プロテインGを実際に合成してその性質を調べた結果、改変前のプロテインGや、プロテインAに比べて、分子特性で優れている点が多いことが分かった。分子デザインの改変によって耐久性が向上し、また、穏やかな条件での精製が可能になったため、抗体の工業的な製造用途にも適合できるようになった。今後、抗体医薬を製造する際の精製工程での利用が期待される。
No.2010-11
2010年3月15日~2010年3月21日