磁性ナノ粒子使うがん温熱治療の発熱メカニズムを解明
:物質・材料研究機構/滋賀県立大学

 (独)物質・材料研究機構は11月15日、滋賀県立大学工学部との共同研究で、隠れた微小ながん組織を選択的に加熱できる微細な磁性ナノ粒子(ナノメートル(nm)サイズの磁石、1nmは10億分の1m)を用いたがん温熱治療の際に、がん組織内のナノ粒子の周囲の環境の微妙な差異によって、特異なナノ粒子の配向状態(向き具合など)が形成され、最適な加熱条件が大きく変わってしまうことを理論的に解明したと発表した。
 がん温熱治療法(ハイパーサーミア)とは、がん細胞が正常細胞に比べて熱に弱いという性質を利用したがん治療法をいう。温熱療法が、手術・放射線・化学療法に続く第4の治療法として研究が本格化したのは、医学的なメカニズムの解明が進み出した最近のことだが、まだ研究段階にあって標準治療法にはなっていない。
 しかし、特に最近、ドラッグデリバリー技術(目標とする患部に薬物を効果的・集中的に送り込む技術)を応用して、磁性ナノ粒子をがん細胞に送り込み、それを発熱体としてがん組織のみを交流磁場で加熱する磁性ナノ粒子がん温熱治療法は、微小ながんなどへの有効で副作用が少ない治療法として注目を集めている。
 しかし、既存の簡単なモデルに基づく磁性ナノ粒子の発熱量の予測は、実験結果と食い違い、磁性ナノ粒子がん温熱治療法の実用化にあたっての大きな障害となっていた。
 研究グループは、この治療が大量の熱を周囲のがん組織に散逸させることを考慮し、実際に近い条件下でシミュレーションを行った。その結果、磁性ナノ粒子の配向状態は、粒子の大きさや形状、その周囲の粘性や交流磁場の照射条件ごとに劇的に変わることを見出した。中には、比較的弱い振幅の高周波磁場を照射した場合のように、磁性ナノ粒子が磁場の方向を向くどころか、磁場と垂直な面内に揃って配向するケースも現れた。そして、磁性ナノ粒子の発熱特性も、こうした熱の流れの中に生じる特異な配向構造に大きく左右されることが分かった。
 今後、加速器などの施設で発生する透過力の高い量子ビームを利用して、この研究の成果が検証され確立されれば、検査をすり抜ける微小がんの有効な治療法の進展にはずみがつき、磁性ナノ粒子によるがん温熱治療法は実用化に向けて大きく前進すると考えられている。

磁性ナノ粒子の電子顕微鏡写真(提供:物質・材料研究機構)

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