固体の真の「バンド分散」の測定に世界で初めて成功
:物質・材料研究機構

 (独)物質・材料研究機横は8月19日、固体の真の「バンド分散」の測定に世界で初めて成功したと発表した。物質の電気的、磁気的性質などを決めていると考えられているバンド分散の直接観測が物性の解明に果たす意義は大きく、研究チームは新たな機能性物質を生み出す重要な手掛かりとなることが期待できるとしている。
 原子を構成している電子は、不連続なエネルギー状態にある(電子は、原子核の周りの飛び飛びの軌道を周回している)が、結晶状の物質中の電子は原子間の相互作用のためにそのエネルギー状態はバンド状(帯状)に広がる。それをバンド分散と呼び、物質に光を照射した際に放出される光電子の数と、光電子のエネルギー、光電子の放出角度(運動量)の3つの関係を調べることによりその情報が得られる。
 「角度分解光電子分光」と呼ばれる実験手法は、バンド分散を調べることができる唯一の方法として近年研究が活発化しているが、物質に照射する光源に紫外光や軟X線を用いていたため固体内部とは異なる表面の電子構造を観測してしまうこともあり、本当に知りたい情報とはいえなかった。軟X線よりも波長の短い硬X線を用いる硬X線光電子分光法が10年ほど前に登場し固体内部の電子状態(光電子のエネルギーと数)の観測が可能になったが、バンド分散(光電子のエネルギー、運動量、数)の情報を得ることはできず、近年バンド分散の観測は不可能という悲観論も台頭していた。
 物材機構の研究チームは、今回広い波長領域の光が得られる大型放射光施設「SPring-8」(兵庫・播磨)のビームラインを用い、硬X線を角度分解光電子分光の光源とする硬X線角度分解光電子分光法を世界に先駆けて確立、金属材料のタングステンと半導体材料のガリウムひ素を対象に観測実験し、世界で初めて固体の真のバンド分散の測定に成功した。
 バンド分散構造の把握については、これまで原子核と電子間に働く基本的な相互作用を拠り所に物質の性質を探る「第一原理計算」という理論的手法に頼っていたが、今回の成功により今後固体のバンド分散構造を実験的に直接決定することができるようになる。これにより、実験と理論の両面から精密なバンド分散構造の解析が可能になり、新たな機能性物質の創生への大きな指針が示されることが期待できるという。
 この研究は、カリフォルニア大学デービス校、ローレンスバークレー研究所、エルラーゲン・ニュルンベルク大学、マインツ大学、ユーリッヒ研究センター、ルドウィグ マクシミリアン大学と共同で行った。

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