赤色量子ドットレーザーの開発に成功
:物質・材料研究機構

 (独)物質・材料研究機構は8月19日、既存の半導体レーザーを凌ぐ性能が期待される量子ドットレーザーで、これまで製作が困難だった赤色レーザーを開発、約760nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の赤色光の発振に成功したと発表した。ガリウムひ素量子ドットを用い、1990年に開発した「液滴エピタキシー法」を改良して実現した。
 半導体を直径数十nm程度の粒状構造にして配列した量子ドットレーザーは、消費電力の低さ、高速動作、温度による特性変化の少なさなど、従来の半導体レーザーよりも優れた特性を発揮できるレーザーとして注目されている。
 しかし、これまでの量子ドットレーザー開発は、光ファイバー通信に適する波長1~1.5μm(マイクロメートル、1μmは100万分の1m)ほどの近赤外領域で発光するものが主流で、医療などへの広い応用が期待される赤色領域の光を出す量子ドットレーザーの開発はあまり行われていなかった。
 近赤外領域用の量子ドット作りに使われる手法では、赤色領域用の量子ドットを均一・高密度に作るのが困難だったからである。
 物材機構は、液滴エピタキシー法という独自の半導体量子ドット作成手法を1990年に開発、赤色領域用のガリウムひ素では難しかった量子ドットの自己形成を実現したが、できた量子ドットの均一性については満足していなかった。今回、同機構の研究者は、その手法を改良して量子ドットの均一性を格段に向上させ、レーザー発振に関わる量子ドット数を大幅に増やすことに成功した。
 主要な改良点は3つ。[1]これまでの不均一性の原因だつたガリウム液滴が高速で結晶化する過程を見直し、遅い速度で結晶化する手法を開発、均一な量子ドット自己形成を可能にし、[2]量子ドットの厚みのパラツキを抑制するため、量子ドットの下部に2次元の層を導入したうえ、結晶化した量子ドットに対して薄膜埋め込みと熱処理によって量子ドット厚みの均一化を達成、[3]さらに、1cm2あたり400億個の高均一量子ドットを5層重ね、量子ドットを高密度化した。
 物材機構は、医療用のほか、情報デバイス用高性能光源などへの応用が期待できると見ている。

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開発した赤色量子ドットレーザーの発振の様子(提供:物質・材料研究機構)