(独)物質・材料研究機構は6月7日、光の波長よりも短い周期構造の人工構造体「メタマテリアル」で予想される光の“負の屈折現象”を理論的に解明したと発表した。光が材料に入射したときに光が手前に折り返すように曲がる負の屈折を起こす光の流れが存在することを証明したもの。
今回の成果により負の屈折現象が定量的に理解できるようになったとして、光の波長よりも小さな構造を画像化する超解像イメージングや、集積回路加工を行う超解像リソグラフィーの実現につながると期待している。
研究を担当したのは、同機構先端フォトニクス材料ユニットの岩長祐伸研究員。金属の薄膜の間に絶縁体を挟んだ三層構造の膜を石英基板上に形成、膜の表面に微細な穴を周期的に開けたフィッシュ型メタマテリアルを対象に、光が入射した時にどのような現象が起きるかを理論的に解析した。
光がメタマテリアルに入射すると、光の波長よりも小さな周期構造の制約を受けて、光は空気中とは大きく異なる特有の状態(電磁波固有モード)をとる。そこで、負の屈折を起こす光がどのような固有モードかを解析したところ、進行方向と逆向きの平面的な光であることが分かった。さらに、電磁波現象を定量的に記述できる「マックスウェルの方程式」を解いたところ、メタマテリアル内部で実際に電磁エネルギーの流れが入射方向と反対向きになっていることを確かめた。
負の屈折率は、1967年に旧ソ連の物理学者が提案した概念で、かつて空想上のものと考えられたが、近年はメタマテリアルで負の誘電率・透磁率を仮定すれば実際に起きると予想されていた。今回初めてそうした仮定をしなくても負の屈折が存在し、さらにそれを定量的に評価できることを示した。
No.2011-23
2011年6月6日~2011年6月12日