安全性高いiPS細胞を効率良く作製
:産業技術総合研究所/ 京都大学/科学技術振興機構/新エネルギー・産業技術総合開発機構など

 (独)産業技術総合研究所は6月9日、京都大学iPS細胞研究所や(独)科学技術振興機構、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構などとの共同研究で、受精卵などの卵細胞で強く発現する遺伝子「Glis1(グリス1)」を用いると、従来の方法に比較して非常に効率良くiPS細胞(万能細胞)を作製できることを発見したと発表した。
 iPS細胞は、体のあらゆる組織細胞に分化する能力を持つ多能性幹細胞で、皮膚などの体細胞に4つの遺伝子(Oct3/4、Sox、Kif4、c-Myc)を導入して作る。京都大学の山中伸弥教授の研究グループが、2006年に世界で初めてマウス細胞で作製し、翌年にヒト細胞で作製することに成功した。
 しかし、こうして作製されたiPS細胞は、導入した遺伝子c-Mycの影響によって腫瘍(がん)の発生が心配されていた。その一方で、c-Mycなしでは、iPS細胞の作製効率が極端に低いこともあって、安全なiPS細胞を効率よく作る方法の開発が強く望まれていた。
 共同研究グループは、臨床応用に使用できるiPS細胞の効率の良い作製方法を確立するため、より安全でより効率の高い新しい遺伝子を探索してきた。その過程で、産総研のデータベースをもとに1,437個の遺伝子の中から、Glis1を探しあてた。
 今回、がんとの関連が指摘されたc-Mycの代わりにGlis1を使い、3つの遺伝子(Oct3/4、Sox、Kif4)と共に、ヒトやマウスの線維芽細胞(皮膚などから得られる細胞の一種)に導入した。その結果、c-Mycを含む従来の4遺伝子を使用する方法に比べiPS細胞を作製する効率が大幅に改善できることが分かった。さらに、Glis1は、iPS細胞になれない不完全な細胞の増殖を抑制し、完全にiPS細胞になった細胞のみを増殖させることも明らかにした。また、Glis1がiPS細胞の作製を促進する機構(仕組み)についても詳細な解析を行った。
 今回の研究成果は、Glis1を用いることにより、安全性の高いiPS細胞を効率よく作製できる可能性を示しており、臨床応用に使用できるiPS細胞作製方法の確立に大きく貢献することが期待される。
 この研究成果は、英国の科学誌「Nature」6月9日号に掲載された。

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