高エネルギー加速器研究機構と東京理科大学などの研究グループは4月6日、電子とその反粒子である陽電子が互いに束縛しあって原子状になった粒子「ポジトロニウム」を、レーザーを利用して作ることに成功したと発表した。電子2個と陽電子1個が結びついた粒子「ポジトロニウム負イオン」は、これまでにも作られているが、ポジトロニウム単独で分離したのは世界で初めて。今回の手法を利用すれば任意のエネルギーのポジトロニウムビームを作ることができるため、無電荷の性質を生かした絶縁体表面の新しい分析技術の開発や、ポジトロニウム自体の性質の解明に道が開けるという。
研究グループは、東京理大の長嶋泰之教授が代表を務め、高工ネ研のほか宮崎大学、東京大学の研究者が参加している。
陽電子は、電子の反粒子でプラスの電荷を持ち、電子と出会うとガンマ線を出してすぐに消滅(対消滅)する。このため、ポジトロニウムが生成されても142ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)、または0.125ナノ秒というごく短い寿命しかない。そこで今回の実験では、先ずポジトロニウム負イオンを大量に作り、これに高強度のパルス状のレーザー光を照射することでポジトロニウムと電子に分離することに成功したという。
ポジトロニウム負イオンは、1981年に米国ベル研究所の研究者がその存在を実験的に確認しているが、これまで大量に作る手法がなかったため、ポジトロニウム負イオンからポジトロニウムを分離する試みはほとんど行われてこなかった。これに対し長嶋教授らは、2008年にナトリウムを蒸着したタングステンに陽電子ビームを照射することでポジトロニウム負イオンを大量に作る手法を確立していた。
No.2011-14
2011年4月4日~2011年4月10日