(独)森林総合研究所は3月8日、国立遺伝学研究所や(財)遺伝学普及会、住友林業(株)と共同で、DNA(デオキシリボ核酸)マーカーを用いたサクラの栽培品種の識別技術の開発に成功したと発表した。
日本を代表する花木として親しまれるサクラは、室町時代の昔から日本に自生する野生種を基に品種改良が行われてきた。現在見られる多くの栽培品種は、主に接ぎ木や挿し木などによる人工増殖によって継代保存されてきた。
しかし、これまで行われてきた花や葉など外部形態による観察のみでは、正確な識別が困難で、形態がほとんど同じものが別の名前で呼ばれるなど品種区分に疑問が生じる例もあった。このため、DNAの解析によるクローン(親木と同じ遺伝子を持つ個体)識別技術の開発が望まれていた。
今回の調査では、八王子市(東京)にある森林総合研究所多摩森林科学園が1967年以来収集した約1,500本(約300栽培系統)と、国立遺伝学研究所(静岡・三島市)が収集した約350本(約250栽培系統)、新宿御苑(東京・新宿区)の約1,300本(約50栽培品種)から、1,850本の調査材料を網羅的に選んだ。栽培系統とは、入手先の履歴まで区別して管理しているものをいう。
新しく開発した計20個のDNAマーカー(個体識別やクローン識別などに適したマーカー)を用いて、サンプルとして選んだ3つの施設のサクラ1,850本を調べた結果、精度の高いクローン識別に成功し、伝統的栽培品種の実態が明らかになった。
最も有名な栽培品種の染井吉野(そめいよしの)は、単一クローンが通説になっていたが、各地から収集されていたものが同一クローンであることが確認された。
また、八重紅枝垂(やえべにしだれ)などの栽培品種も単一クローンと確認された。これに対して、枝垂桜(しだれざくら)と呼ばれる品種や、四季桜(しきざくら)や寒桜(かんざくら)などには、多くのクローンが含まれていることが分かった。
また、従来は異なる名前で呼ばれていたものが、DNA解析により同じクローンと分かったものも見つかった。
今後の研究としては、全国の栽培品種の遺伝的識別データを積み重ね、それぞれの品種の遺伝的関係などを調べ、品種の由来を明らかにしたいと考えている。
No.2011-10
2011年3月7日~2011年3月13日