350万年前にもエルニーニョ現象があった証拠を発見
:産業技術総合研究所/北海道大学/国立科学博物館

 (独)産業技術総合研究所は3月10日、北海道大学、国立科学博物館と共同でフィリピンのルソン島で発掘された約350万年前のサンゴ化石から、当時もエルニーニョ現象が起きていたことを示す証拠を発見したと発表した。
 この時代は、「鮮新世温暖期」と呼ばれ、将来の温暖化した地球環境に最も似かよっているとされる。この鮮新世温暖期にエルニーニョ現象が存在したかどうか論争になっていたが、今回これに決着を付けると共に、将来の温暖化の下でのエルニーニョの挙動を予測する上で重要な知見が得られたとしている。
 発掘したのは、骨格の成長速度が大きい造礁性サンゴの化石。このサンゴの炭酸カルシウム骨格は、季節変動によって樹木のような年輪を形成、年輪に沿って酸素16と酸素18の同位体比を分析すると過去の水温や塩分の変化が分かり、数週間単位の分解能で環境変動の情報を得ることができる。
 研究チームは、鮮新世温暖期(約460万年前~同300万年前)の地層から保存状態の良い化石を発見し、酸素同位体比を分析、化石サンゴの酸素同位体比変動パターンと現世サンゴの変動パターンとを比較することによって、鮮新世温暖期におけるエルニーニョ現象の有無を検証した。抽出したのは、35年分の大気と海洋環境(水温と塩分)の季節変動、および経年変動パターンで、鮮新世温暖期には現在とほぼ同じ周期でエルニーニョ現象が起こっていたことが明らかになったという。
 エルニーニョ現象は、赤道に近い低緯度域で太平洋東部から中央部にかけて海水温が上がり、太平洋西部の海水温が下がる現象。ほぼ数年毎に発生し、気象変動の大きな要因になっている。温暖化した気候システムでは、エルニーニョ現象を起こす太平洋の東西の水温勾配がなくなり、全域の水温が高い“永続的エルニーニョ状態”になり、エルニーニョ現象は発生しなくなるという仮説が提唱される一方、鮮新世温暖期にもエルニーニョ現象は存在し、むしろ東西の水温勾配は大きくなってエルニーニョ現象はより強く、より頻発していたのではないかとする仮説も提唱されていた。
 今回の発見は、永続的エルニーニョ説を否定するものであり、将来の温暖化した地球におけるエルニーニョ現象の予測やその影響の見積もりなどに手がかりを与える成果という。

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発掘された約350万年前のサンゴ化石(提供:産業技術総合研究所)